人懐っこいシジュウカラの行動を通して、今まで小鳥の生態からはわかなかったことが、いろいろ明らかになってきました。この知見から、生態系の保護やサウスワールドの国々を豊かにする仕組みを考えてみました。シジュウカラという小型の鳥に言葉があることを、証明した日本の鳥類研究者の方がいます。その発端は、シジュウカラが他の鳥より鳴き声の種類が多いと気づいたことにあるようです。この鳥は、鳴き声を状況に応じて使い分けているのです。今までの動物学や言語学では、鳥たちが「怖い」「好き」などの感情のみ伝えるとされていました。でも、この研究者の方は、ヘビとタカの違いで、鳴き方を変えることの観察を交えて実証的に調べていきました。100個近い巣箱を取り付け、へビの剥製を使って実験していきました。すると、ヘビはヘビに対する鳴き声があり、タカにはタカの鳴き声があり、それぞれに対応することが分かったわけです。仲間のシジュウカラの「ジャージャー」という鳴き声を聞くと、地面や茂みなどへビがいそうな場所をじっと見ます。「ジャージャー(へビだ)」という鳴き声を聞いて、地面を探すシジュウカラ姿があるわけです。「ジャージャー」の声に対して数百の反応が同じであれば、「へビ」という単語になることになります。シジュウカラにタカの剥製を見せると、「ヒヒヒ」と鳴くなど、ヘビの「ジャージャー」と使い分けていることがわかりました。鳴き声だけでなく、「ヒヒヒ」という鳴き声を聞いたならば、蔽(やぶ)に逃げたり、上空を見上げたりする姿がありました。ヘビの場合は下に注意を払い、タカの場合は、空に注意を払う姿は、鳴き声と動作が一体の動きになります。
この研究者の方の凄いところは、単語だけでなく、鳥が文章まで取得していたことを証明したことです。この文章の証明では、語順を入れ替える実験で、文法があることまで明らかにしたのです。シジュウカラは、天敵のモズが現れると、集まってモズを威嚇する行動をとります。天敵のモズが現れると、「ピーツピ(警戒しろ)・ヂヂヂヂ(集まれ)」と声を出すのです。ところが語順を逆にして、「ヂヂヂヂ・ピーッピ」と合成した声を聞かせても反応しないのです。この方は、合成した声の証明法を編みだし、15年以上観察を続け、コツコツと文章と文法を明らかにしてきました。「ツピー」「チッチッ」など20以上の単語を使い分け、200種類以上の文章を作っていることがわかったのです。動物学や言語学では、人間以外は単語や文法は持たないと考えられてきました。でも、この研究を通じて見えてくるのは、言語を持つことに関して人間が特権的な存在ではないということのようです。
ヒトは、二足歩行の進化とともに両手が自由に使えるようになりました。両手が自由に使えるようになったために、ジェスチャーが進化してきたとされています。指を差したり手を振ったりするジェスチャーは、ヒト特有の意思疎通の手段の一つと考えられてきました。身ぶり手ぶりで意思を伝える「ジェスチャー」はヒトや類人猿にしがないとされていました。ところがここに来て、シジュウカラも、意思を伝える「ジェスチャー」することが明らかにされてきました。東京大学の鈴木俊貴准教授は、鳥が翼の動きで意思疎通していることを発見しました。シジュウカラはー夫一妻制で、オスとメスの両方が巣箱に餌を運んで子育てをします。両方が同時に巣箱に来たときに片方が翼を震わせると、もう片方が先に巣箱に入る特徴的な行動が見られました。シジュウカラは翼を震わせ、「お先にどうぞ」とジェスチャーをしていたのです。翼を震わせる行動は、メスの方が多かったようです。この小鳥の場合、男性優位の社会なのかもしれません。単独で巣箱に来たときには、このジェスチャーの行動は全くみられないのです。鳥が翼で「お先にどうぞ」と、コミュニケーションをとっている行動を世界で初めて明らかにしました。身ぶり手ぶりで意思を伝え「ジェスチャー」が、多くの動物で見つかる可能性が出てきました。
サウスワールドの国や地域では、乱開発が行われているケースがあります。たとえば、一部地域で焼き畑農業がおこなわれているフィリピンなどでは、森が減っていく現象が見られます。この現象が続くと、日本で見られる渡り鳥が少なくなる恐れがあるのです。フィリピンの現地では、2000年ごろから森を焼いて農作物の畑にするようになりました。急斜面を畑にするために、大雨で土壌が流れ、森も失われているのです。同じ野菜ばかり作るため病気に弱く、疲弊する畑がたくさん出てきています。結果的に、住民の貧困が進む「負のスパイラル」が起きています。森を焼き払わなくてもできる農業が、アジアでは取り組みが進んでいない現実があります。中南米やアフリカでは、森を焼き払わなくても良い農業が盛んになってきています。その一つに、コーヒーの生産があります。日陰にコーヒーの木を育ててれば、森を焼き払わなくても農業ができます。森を焼き払わなくても農業ができ、鳥だけでなく水源や土壌も守れます。高木の陰で育てるコーヒーの木の育成は、里山のような環境になります。
キビタキは、福島県の県鳥になります。「キビタキ」は 毎年4月中旬ころ東南アジアからやって来て、黄色い美しい姿を私たちに見せてくれます。この鳥は渡り鳥で、森林に発生する害虫を食べ、緑の山を守る益鳥でもあります。キビタキは、都市部の林などでもよく見られる鳥になります。夏鳥は春から夏に日本で子育てをし、冬は東南アジアで過すものが多いのです。日本のNGOの方が、この鳥に注目しています。フィリピンのコーヒー園で、渡り鳥のすみかであ森を守る活動に取り組んでいるNGOがあります。伝統的なコーヒー栽培では、高木の日陰にコーヒーの木を育てています。コーヒー農園が、キビタキの越冬地になる可能性があるのです。コーヒー園の害虫を食べてもらえれば、結果として、日本の里山の風景を守ることにもつながるという発想が生まれます。キビタキの個体数が増えれば、フィリピンと日本の害虫が減少するという効果があります。日本の都市部で見られる野鳥が、冬はフィリピンのコーヒー農園にいるかもしれません。最近、「エシカル消費」という言葉をよく聞きます。キビタキが生息するコーヒー園のコーヒーを飲むことにより、生態系を守り、地域の人々の生産性を高め、豊かにする仕組みができるわけです。これは、一石二鳥の工夫になるかもしれません。生態系を守り、そこで栽培されたコーヒーを購入し、環境や社会を守るという考えは、これから浸透していく可能性があります。
生態系に、人間と野鳥が貢献した歴史的事例がドイツにあります。世界で最初に巣箱がつくられた国は、ヨーロッパのドイツになります。最初に巣箱を考案した人物は、ドイツのべルレプシュ男爵です。彼は、観察と経験から、現在まで各国で使われている形の巣箱を考案しました。ベルレプシュ男爵は、13baの林地に3000個の巣箱をかけたのです。1905年に、男爵の住む地域にハマキムシの幼虫が大発生し、大きな被害がありました。周囲では被害があったにもかかわらず、男爵の領地では被害らしいものがありませんでした。36種類の560つがいが、巣箱で繁殖していたために、鳥たちがハマキムシを捕食していたのです。巣箱のおかげで、男爵家の領地ではほとんど被害がなかったというわけです。現在では、小鳥を研究する場合、その生息地やその生息地に生きている昆虫の存在が重要な対象になります。いわゆる生態系の存在です。生態系の視点から、鳥の餌と昆虫の分布が、どんな関連があるのかという調査は欠かせないようです。小鳥の生息においても、心配事も起きています。正常な生態系が、森の荒廃や乱開発により維持できなくなりつつあるケースが起きています。このような地域は、維持できる地域と維持できない地域では、「エシカル」という視点から、その土地の価値に大きな差ができつつあります。そこの土地で取れる作物には、付加価値が付いてきます。
最後になりますが、台湾では、政府が有機栽培に補助金を出して推進しようとしています。もちろん、EUなどでも有機農業に多くの補助金をだして、自然を守ろうとしています。有機農業をしている田畑には、小さな虫がたくさん住んでいます。その虫を求めて、カエルやドジョウ、トンボまでがやってきます。そして、これらの動物を捕食する小鳥や猛禽類が生息することになります。生物種が多い田畑で耕作された作物は、安全安心の評価を獲得できるものになります。有機農業が、注目されているのは、健康面と自然環境を維持している点にあるようです。猛禽類の減少の理由は、生息地の破壊や農薬、そして動物用医薬品による中毒死といわれています。その理由は単独ではなく複合的なものです。特に、農薬などの化学物質は、その理由に挙げられます。東南アジアの富裕層や中間層においても、健康意識がますます高まっています。彼らの価値判断が、「食べ物が高いとか安い」より、安全に比重が傾いてきています。ちなみに、シジュウカラの天敵でもある一羽のハイタカは一年間に779羽のシジュウカラを食べないと生きていけません。ハイタカがたくさん見られる風景は、安全な食物を作れる場所と評価されます。たくさんの小鳥が生息するコーヒー園は、安全なコーヒーを作れる場所と評価されます。たとえ1匹のハイタカでも、そこに生息する限り、ある意味で安心安全が保障された場所でもあるようです。