二酸化炭素の排出が、地球温暖化を促進しています。世界は、この排出を実質ゼロにしようといろいろな政策を掲げています。たとえば、木材から作られるペレットをバイオマス発電に使用すれば、カーボンニュートラルになります。つまり、二酸化炭素(CO2)の排出は、プラスマイナスゼロということです。このバイオマス方式で、全世界のエネルギーを供給することができれば、世界が毎年排出する330億トンのCO2をゼロにすることができます。もっとも、すでに大気中にある8300億トンのCO2を減らすことはできません。興味深いことに、地球の歴史を見ると、このCO2の問題を解決してきた事例があります。過去の地球の生態系は、CO2の排出の問題を上手に解決してきたのです。3億5000万年前の地球には、現在の20倍以上の高濃度のCO2に覆われていました。この時代は、巨大なシダ類が繁殖し、大森林が出現していました。光合成によってCO2を吸収した植物は、巨大に成長しました。そのシダ類は、化石となって現在の石炭となりました。20倍の濃度の二酸化炭素をシダ類が吸収し、地下に貯留した産物が炭素の塊の石炭ということです。結果として、20倍のCO2濃度が、人間の生活できる大気の状態になったわけです。
過去の地球に倣って、二酸化炭素(CO2)を回収して、地下に貯蔵しようとする試みが行われるようになりました。スイスの企業クライムワークスクライムワークスは、アイスランドで新型のDACプラントを稼働させました。DACは、ダイレクト・エアー・キャプチャーの略になります。このDACは、空気から直接CO2を回収する技術です。クライムワークスは、アイスランドで年間4千トンを回収できるプラントを稼働させています。ファンで空気を取り込み、噴霧したアミン溶液やアミン入りフィルターなどでCO2を集める仕組みです。空気中から、CO2を回収する仕組みは、カーボンニュートラル(温暖化ガスの排出実質ゼロ)への有力な武器になります。DACを稼働させれば、CO2が単純にマイナスとなり、排出分を帳消しにできる優れものです。取り出したCO2は、連携するアイスランドの企業が開発した技術により地下に埋めることになります。地質時代の石炭紀に地球の生態系が自然に行ったことを、現代は人類の英知を駆使して行っているわけです。
余談ですが、二酸化炭素(CO2)を回収して地下に貯留する技術は「CCS」と呼びます。クライムワークスのプラントは、アイスランドの地熱発電所が生む電力で全ての動力をまかなっています。日本でも、この事業を試験的に行っています。石油資源開発機構と国際石油開発帝石株式会社は、2016年から2019年にかけて北海道苫小牧市沖の海底下に圧入したのです。約30万トンの二酸化炭素を、北海道苫小牧市沖の海底下に圧入したわけです。CCSはCO2を地下にとじ込める技術で、「分離・回収」「輸送」「圧入」の3工程からなります。世界のCCSの平均コストは、CO2を1トン処理するのに8000円から1万円程度とされています。7割にあたる5000~7000円程度は分離と回収工程が占め、この工程のコストダウンが急がれています。CO2のパイプラインでの輸送には、1トンに1000円かかります。同じように圧入する費用は、2000円かかります。日本の三菱重工は「分離・回収」の分野で先行する企業の一つになります。その三菱重工は、世界14カ所で回収装置を納入し、その装置は稼働中です。特に、アメリカテキサス州で2016年に始まった世界最大級の案件の貯留能力が年160万トンになるCCS受注しています。CO2の回収を始めているのです。160万トンは、年間排出量の330億トンに比べれば、微々たるものです。でも、人類による二酸化炭素の回収の試みは始まっています。
二酸化炭素(CO2)を減らすことは必要なことですが、それだけでは楽しくないという人や企業もあります。CO2を減らしながら、地域に利益をもたらし、豊かにするという発想の持ち主もいます。森林資源が豊かな東北地方では、バイオマス発電容量が急速に伸びています。震災と原発事故を経験した東北では、太陽光なども含めて再エネルギーへの関心が非常に高いのです。バイオマス発電の燃料は、木材になります。固定価格買い取り制度は、バイオマス発電の燃料の木材の種類によって売電価格が異なります。伐採後にきちんと植林して適切に管理された森からの木を使えば、1kwhあたり32円になります。蛇足ですが、バイオマス発電量が2000kw以上の場合、1kwhあたり32円です。でも2000kw以下の場合、1kwhあたり40円になります。一方、適切に植林が行われず、良く管理されない森の木では、1kwhあたり24円になるのです。木材を供給する山林所有者は、製材も端材もできれば高く売りたいのが人情です。高く売るために植林やその管理にも、力が入ることになります。建材などに使えない端材を燃料に使うことで林業者の収益確保につながるわけです。結果として、林業の活性化につながり、山の生態系が守られ、そして利益を得るという好循環が生まれるように誘導しようとした価格ともいえます。
アマゾン河口域に、日本製紙が2006年に丸紅と共同買収子会社の植林会社アムセルがあります。この企業は、全世界で製紙原料調達の効率化と、二酸化炭素吸収量を増やす脱炭素の取り組みを推し進めています。二酸化炭素吸収効果をうたうだけでは、事業として継続はできない現実があります。この日本製紙は、ブラジルで優良品種の選別期間を短縮する実証試験に取り組んでいます。木の成長を早めて、二酸化炭素の吸収量を高め、かつ木材を有効活用しようという狙いです。アムセルでは、1haあたりの木材チップ生産量が、2005年に比べ2倍に増えたという実績があります。日本製紙が育てる成長の早い品種は、特定苗木(エリートツリー苗)とよばれています。スギなら通常50年以上かかる伐採までの期間を、30年に短縮できる新品種になります。樹木が早く、しっかり育てれば、二酸化炭素の吸収増にとどまらず、利益をあげることも可能です。樹木が早く、しっかり育てば、住宅や製紙向け原料の質や採算性の向上にもつながるというわけです。エリートツリー苗は、3000万本に増やす計画で進んでいるようです。価格は、1本150~200円程度となる見込みです。日本製紙は、国内外に森林面積約17万へタタールを持っています。この森林とエリートツリー苗を利用した植林を行えば、森林の成長とその伐採は、二酸化炭素の安定的な吸収を行う森林の役割になります。森林を二酸化炭素の安定的な吸収源として維持するには、森の循環サイクルの効率性も求められるようです。
森林のサイクルの速度を上げるには、短周期栽培の樹木(成長の速い樹木)が必要になります。エリートツリー苗は、その候補の一つになります。他の候補に、ヤナギの木があります。このヤナギは、挿し木が容易で、成長が早く、萌芽再生能力(切り株から再成長する能力が強い)という性質があります。1年収穫の場合、1.5mから3mに成長します。ヤナギは刈り取り後の萌芽,更新能力が高く、再造林が必要ないという利点があります。ここに来て、エリートツリー苗やヤナギの木より、より優れた種が開発されてきました。かねやま須藤農園(山形県金山町)は、食品製造をしています。このかねやま須藤農園は、バイオマス事業のオウルテス(東京)と組み3月から試験栽培します。栽培する樹木が、オウルテスが開発した「ヤマトダマ」になります。半年で高さ約6mになり、ヤナギなどより成長が速い特性を持ちます。1粒の種子から300~500粒の種子を取ることができ、大量生産も可能です。かねやま須藤農園の畑のー部3アールで約500本を栽培し、10月ごろに収穫する予定です。この樹木を、施設園芸の暖房やバイオマス発電への活用を目指しています。成長が早い早生樹「ヤマトダマ」を使って、エネルギーの地産地消を考えています。
最後になりますが、茨城県常陸太田市には、バイオマス発電所の計画があります。この常陸太田市では、30億円かけて木質バイオマス発電を建設し、年間6万トンの未利用材を燃料にするものです。発電能力が5.8MW(メガワット)発電事業の総事業費は約30億円になります。年間の発電量は、約4000万kWhになり、年間の売電収入は13億円程度になるようです。ある実験では、ヤナギが萌芽後の2年間で4mを越える高さに成長します。苗の株間隔を50cm、列間隔1.5mで密度2万本を1haに植えました。この1年後には、1本の枝の総量は平均0.6kgに成長していました。炭素は樹種によらず、全体の50%を占めていることがわかっています。式にすると、0.6k kg×2万本×0.5=6000kgとなります。1haの人工林に植林すると、6トンの炭素を光合成によって作れることになるわけです。4000万kWhの発電は、カーボンニュートラルになります。この発電やそれに伴う廃熱を利用して、園芸栽培や保養施設への温水供給などが可能になります。DACの類似技術には、施設などから出る二酸化炭素を大気に出す前に回収する「CCS」があります。この回収技術を使って、回収し地下に滞留すれば、バイオマス発電の利益に加え、空気中の二酸化炭素を減らすことができます。減らす結果、カーボンプライシングで1トンにつき7150円を稼ぐことができます。カーボンプライシングとは、二酸化炭素(CO2)排出に対して価格付けし、市場メカニズムを円滑にするものです。過疎化が深刻な山形県最上地域で、成長が早い早生樹を使ってエネルギーの地産地消を行うことも一つの在り方です。そこに、CCSを加え、カーボンプライシングを行うことも副次的効果を産みます。このような形で、地球に貢献できる循環系の村の経営を行うことができれば楽しいことになります。330億トンを削減することも、「千里の道も一歩より」ということになります。