ファンタジアランドのアイデア

ファンタジアランドは、虚偽の世界です。この国のお話をしますが、真実だとは考えないでください。

ラーケーョンの導入から未来の教育を眺める アイデア広場 その1369

2024-03-20 17:49:25 | 日記

 コロナのパンデミックは、学校教育にも大きな影響を与えました。小学校の授業時間数は、「小学校学習指導要領」で決められています。たとえば、小学校6年間に習う総授業時間数は5785コマ時間になります。コロナで、学級閉鎖や学校閉鎖により、この授業時間数が、今までになく削られたのです。結果として、学習の遅れた学校やクラスがあった一方で、遅れることなく学習能力を高めた子ども達もいました。その理由は、これから明らかになることなるでしょう。この興味深い理由を、先取りする学校や自治体が現れています。その現れは、ラーケーョンの導入に見られます。ラーケーションは、(学び)とバケーション(休暇)を組み合わせた造語になります。欠席扱いにならずに、学校を数日休める新制度であるラーケーョンが、一部の地域で始まっています。小中学校や高等学校の一部で、欠席扱いにならず学校を数日休める新制度が始まっているのです。ラーケーションは、自宅で勉強しても良く、目的があれば自由に過ごすことができる制度です。この制度は学校を休んで、家族や友人とテーマパークに行っても良いというものです。愛知県や大分県別府市で、2023年度の2学期から導入され、始まっています。もっとも、わずか年3日まで休むことが可能になったというものです。でも、ラーケーションの導入は、個々人に適した学習のあり方を考えるきっかけになると期待されています。
 導入する自治体は、ラーケーションによる学習の遅れは、家庭学習で補うことを基本としています。この導入は、画一的で同調的な教育のあり方を少しずつ変え始める可能性を持っています。学校を数日休むだけで問題生じる横並びの学習は、受動的な教育として限界が見え始めています。世界の流れは、子ども達の自主性を重視する方向になりつつあります。子どもが、自己調整しながら学習を進めていくことは大切なことです。休む日を自分で決めることは、主体的に自分の学習スケジューレを組み立てる訓練にもなります。休んだことによる学習の遅れは、自分自身で、もしくは仲間と取り戻すことも、これからの社会では必要な能力になります。学校を卒業し、働き始めてからも、リスキリングなどの学び直しが求められる時代になっています。社会人が自ら進んで、学び続ける状態を実現するためには、小さい頃からの訓練も必要です。ラーケーションは、この社会人に「主体的な学び」が求められているのに呼応した動きなのかもしれません。
 主体的学びをめざすために、デジタルツールを使う環境が整いつつあります。優れた事例として、九州大学が教育データの活用に取り組んでいることがあります。19000人の学生と8000人の教員に、学習管理や教材配信システムが提供されています。現在開講中の4800科目で、データの活用が可能になっています。教育のデジタル化は、学生の質疑の応答や教材へのアクセス記録を容易に収集し活用できる環境を整備しつつあります。将来的には、小学校から大学、そして社会人教育までの教育データを蓄積する構想があります。さらにこの膨大なデータの利用が可能になるツールとして、デジタル教科書の実用化があります。1つのタブレットに、小学校1年から高校3年までの学習内容を系統的に配置することも可能になります。このタブレットに、学習書や補助教材もタブレットにインストールできることでしょう。このタブレットに、①自律的に活動②デジタル機器を相互作用的に使うツール③異質性の集団での活動の教材を入れておけば、世界の流れについていける人材を育成できるわけです。多機能のデジタル教科書ができれば、誰でも、どこでも、どのような進度の速さでも学べるようになります。さらに、デジタル教科書にオンラインが接続されれば、教育の範囲はさらに広く便利になります。学習意欲のある子供は、どんどん前に進むことができます。主体的に学ぶ周辺技術は、整いつつあるということです。
 余談になりますが、周辺技術について見てみます。 10年ほど前、マイクロソフトの主任研究員は、自分の前に現れる人間を自動的に撮影し、自分の周囲の会話をすべて録音しました。過去10年間の記録には、10万通以上の電子メールや数万枚の写真まで含まれていました。この過去10年間の記録には、1000ページの健康記録や所蔵している全書物も含まれていました。また、別の研究員も、同様のことをしていました。彼は自分の息子が生まれる前に、11台のビデオカメラと14本のマイクを自宅に設置したのです。子どもの記録は地下室に転送され、容量テラバイト単位のサーバー用の外部記憶装置に保存できるようにしました。赤ん坊の泣き声や夫婦の口論の様子が、25万時間に及ぶビデオにすべて漏れなく記億されたのです。これらの研究員は、子どもや自分の行動記録をデジタルデータとしていつでも取り出せる仕組みにしたのです。これらの個人データの収集は、現在はスマホなどを使えば、低コストで収集が可能になっています。現在、小中学生全員に1人1台タブレットもしくはパソコンの配備が終了しています。さらに、もうすぐにデジタル教科書が作られます。すると、小中高の教科書が、タブレット1枚に収納されることも可能になります。1つのタブレットに、小学校1年から高校3年までの学習内容を系統的に配置も可能になるわけです。タブレットとデジタル教科書の連動がスムーズになれば、誰でも、どこでも、どのような進度の速さでも学べるようになります。さらに、デジタル教科書にオンラインが接続されれば、教育の範囲はさらに広く便利になります。学習意欲のある子供は、どんどん前に進むことができます。教育のデジタル化では、学習履歴データが自動的に記録されます。これが個人のレベルでも国のレベルでも利用できれば、大きな教育イノベーションになります。残念なことですが、このタブレットもデジタル教科書も十分に利用されていない現実があります。
 ラーケーションの導入は、学校の問題だけではありません。このラーケーションを導入する自治体の問題意識にあるのは、日本の有給休暇取得率の少なさになります。日本の有給休暇取得率は平均60%であり、この数字はドイツの93%に比べ非常に低いのです。土曜日に働いている人は45%、日曜日は30%になります。この45%と30%存在は、親子の休みがなかなか合わない原因になっています。このすれ違いが、「どうせ子どもは休めないから」と有給を取らない人が増える悪循環を生み出しています。ラーケーションで子どもの休日を事前に計画できれば、親が子どもに合わせて休みを取るができます。この意味で、ラーケーションは経済的にも効果を生み出す可能性があるのです。観光需要が平日に分散すれば、観光地の飲食店やホテルはビジネスチャンスになります。観光需要の分散にもつながるため、地域経済の活性化にも貢献できます。平日は旅行料金や宿泊費が安くなります。安くなれば、ファミリー層の旅機会が増えます。ラーケーションを導入している愛知県は、平日や閑散期の旅行者向けに宿泊費の割引など特典を付与するキャンペーンを行う計画のようです。新しい制度を多角的に利用する工夫は、これからの市町村に求められ才覚になります。
 良いと思われる新しい制度を作ると、それで不利益を被る人たちがでてきます。ラーケーションの導入で、不利益を被る人たちは先生になります。ラーケーションによる学習の遅れは、家庭学習で補うことを基本とすることです。でも、現状では先生方の支援が必要になるでしょう。結果として、先生の負担が増えることが懸念されます。クラスの子ども達の休みスケジュールを把握し、その遅れを想定し、支援する教材の準備などの手間暇も生じます。子どもの休み方を柔軟にすることの懸念は、新制度に伴う先生の負担が増えることになるわけです。特に、熱心な先生にこの傾向がでると予想されます。もちろん、先進的な自治体は、この点を考慮し、予算を獲得しています。愛知県は7億円を投じて、非常勤の校務支援員を1校当たり週20時間分の人件費を確保しています。でも、お金だけではどうにもならない課題もあります。「ブラック教育現場」との言葉がささやかれる中、これ以上の負担増を強いるのは難しい状況です。国が指摘で上限とした月45時間以上の残業に相当する「週50時間以上」の教員は、小学校で64.5%、中学校で77.1%に上ります。先生方は、深刻な長時間労働が続いています。先生方が、余裕をもって、個々の子ども達を支援できる環境を整えていきたいものです。
 最後になりますが、教育現場における余裕は重要な要素になります。教師が子どもの才能に期待を持つことが、子どもの知能検査や学業成績に影響を与えるという研究成果は、ピグマリオン効果として知られています。このピグマリオン効果の実験の結果が発表されるやいなや、心理学界、教育学会には大きな衝撃が走りました。教師の期待だけで、子ども知能や学力が伸びるという事実に驚きが起きたのです。もちろん、専門家は、結果だけでなくその経過にも注意を払っていました。専門家は、教師を観察していたのです。対象の教師は期待の高い子どもに対して、称賛する割合が高く、叱責する割合が低くなっていったのです。期待の高い子どもには、多くのほほえみやうなずきを与え視線を向ける傾向がありました。暗黙のうちに行う期待に基づいた教師の行動が、子どものモチベーションを高めることに影響を及ぼしたことがわかりました。期待の大きさと少なさが、教育効果に影響を及ぼすことを示したことが、一つのエポックになった実験でもありました。このピグマリオン効果から、教師やリーダーの役割が明らかになってきました。教師の期待に基づいた笑顔やうなずき、あるいは支援すべき時にしかるべき助言を、全ての子どもに対して行う姿勢があれば、どのような子どもでも知能や学力を伸ばすことができるという可能性が広がります。先生方には、全員の子ども達を幅広く、そしてその子どもに合った支援を随時行うことが求められます。そして、そのとき先生に支援できる余裕を持ってもらうことが必要です。先生が余裕をもって子ども達に支援できる環境を整えたいものです。