TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「約束の夜」214

2020年04月10日 | 物語「約束の夜」
「………」

シズクは目を覚ます。
辺りはまだ暗闇で、夜明けまではまだ時間がある。
なんだか怠いけれど、
頑張って体を起こす。

「………」

暫く頭が動くまで
上半身を起こした状態でぼんやりとする。

「………よし、今日は起きれた」

ベッドから這いだし身支度を整える。

「なんだろう」

最近寝起きが悪いな。
なんだか、モヤがかかったような。
疲れているのかな。

「しゃきっとしなきゃ」

服を着替え、
必要な荷物を抱え
人が集まる港へと向かう。

「おはよう、シズク」
「おはようございます」

あちこちに声を掛ける。

「フン」
「あ、ユウヤ」
「起こしに行かないといけないかと思った」

「今日はちゃんと起きれたわよ」

「そのようだな」

ポンポン、とシズクの頭に触れる。
ぶっきらぼうな用で
心配はしていたのだろう、と

いつもなら、そういう所が良いな、と
思うのだけれど。

「やっ」

止めて、と思わずその手を払う。

「………」
「………あれ」

私、何でユウヤの手を払ってしまったのだろう、と
思わず自分の手を見つめる。

「………」

む、としてユウヤはその場を離れていく。

「ちょっと待ってユウヤ」
「なんだ、悪かったな。
 俺に触られたくないんだろ」
「そうじゃなくて、あれ、なんで私?」

「戻れ」

来るな、とユウヤは言う。

「自分の勤めを優先しろ」
「あ………うん」

皆が揃ったところで
今日、漁に出る者達の代表が前に出る。

シズクはその手を取り
そっと、目を閉じる。

いつもの感覚。

シズクの瞳の色が僅かに変わる。

「滞りなく、南西の方に兆し有り、
 …………よい、船路を」

今日の漁の先視が終わると
皆それぞれに舟に乗り込む。

ユウヤの姿も見えるが
明らかに機嫌が悪い。

「なによ、手を払ったくらいで」

そう、少しは
普段の自分を反省したらどうだろうか。

そうじゃないと、私は。

そう考えて、
私は?私はどうなるというのだろう、と
首を捻る。

どうしたのだろう。

何だかいつもの
自分じゃないような気もする。
本当に具合が悪いのかも。

今日は朝の勤めを終わらせたら
帰って休んだ方が良いのかも。

「あれ?」

何だか目の前がクラクラする。

視界の端が暗くなり
だんだん辺りが見えなくなっていく。

私。

私は。

あの日。
西一族の青年と出会ってから
それから、どうなった。

覚えて無いかな、と
彼は言っていた。

あの日だけじゃない。

いつもすっかり忘れてしまう。
なんでだろう、忘れたかったのかな。

どうして
こんなに具合が悪いのだろう。

私。

私は。


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「約束の夜」213

2020年04月07日 | 物語「約束の夜」
美味しい物でも食べて
気分転換をしなさい、と言われ
結局とぼとぼと家に戻る事になる。

「先視で自分の事も見れたら良いのに」

そうしたら、
寝坊する事も分かっていただろう。

この力を持つ他の者がどうかは分からないが
シズクにはこの先良い事がある
悪いことがある。

そう言ったぼんやりとした事が分かる。

なので、
司祭を初めとする歴代の先視は
毎日の漁の前に、今日の漁を占う。

結果次第では漁を取りやめることがあるぐらい
海一族の漁師はその結果を重んじている。

けれど、
先視は自分自身の事は見えない。
先視同士でも見ることが出来ない。
他人の事でも
自分に関わる事は見えなくなる。

そういう制約がある。

そして、
人の死期は見えたとしても言ってはいけない。

未来が何もかも見通せたら
それはきっと良くないことだからだ、と
納得しているけれど。

「寝坊するかもぐらいは、さあ」

思い出したら悲しくなってきた。

「………ユウヤはいつもそう」

不器用な人というのは知っている。
良い所が沢山あるのも。

でも、

そう昨日だって、
随分な事を言われた気がする。

「私が何も言わないのも悪いのかな」

ニコニコと受け流していれば
すぐ終わる事だから。
文句を言われても
そうだね、と笑うようにしている。

「ふう」

もし、ユウヤじゃない人と
恋人になっていたら、
それは、どういう日々だっただろうか。

「どうしたんだ?」

それが少しユウヤに似た声だったので
びっくりして振り向いてしまった。

「あ、ええっとこれは何でもないの」

シズクは涙をぬぐう。

「他の一族の人ね。
 ええっと西、それとも北の方?」
「西一族だ」
「観光かしら?
 そうしたら、港に行くの?」

水辺を囲む八つの一族で
唯一海に面して居る海一族の村。

海を見たいと訪れる人も多い。

「ああ、今日はそう言う目的じゃないんだ」
「そうなの?
 誰か尋ね人?」

「俺の事覚えて無いかな?」

「ええ?」

何を言ってるのこの人、と
シズクは一瞬パニックになるが
そういう声かけがあるって聞いたことがある。

久しぶり~、同級生だけど、みたいな。

「………」

どうしよう、詐欺かな、と
少し距離を取るが
西一族の青年は言う。

「冗談だ。
 そんな目で目の前を通られたら
 放っておけないからなぁ」

あぁ、本当。
声だけはユウヤに似ている。

他一族の人なのに。

「君が落ち着くまで少し話さないか、
 なに、今から帰る所だから
 村境に行くまでで良いんだ」

お茶でも出来たら良いけれど、と
冗談めいて彼は言う。

「それはさすがに君の恋人に悪いだろう」


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「約束の夜」212

2020年04月03日 | 物語「約束の夜」
「あれ?」

シズクは目を覚ます。

起き上がると、そこは見慣れた自分の部屋。
何だかいつもと違う感覚。
なんだろう。

眠りすぎて疲れた様な。

………眠り過ぎて?

「………!!?」

慌ててベッドから飛び起きる。

いつもと違う訳だ。
日はとうに昇りきっていて
普段より明るく照らされた部屋。

あわあわ、と
部屋の中を行ったり来たりする。

「寝坊だわ!!」

信じられない、と
慌てて顔を洗うと
身支度もほろろに家を飛び出す。

「もうヤダ」

呟いて、ふと何かが頭に引っかかる。

が、今はそんな事を
気に掛けている暇は無い。

海一族は漁師の一族。
漁師の朝は早い。
日も昇らぬ頃から漁に出掛ける。

「何で私、こんな時に限って」

寝起きで走って
何だが具合が悪くなるが
うえええ、と言いながら
港に辿り着く。

「………ぜぇ、はぁ。
 そうよねぇ」

港にはもう帰り着いて
停泊している舟が並ぶ。

ほとんどの漁は夜明け前に始まり
そして、
夜明けと共に帰ってくる。

とぼとぼと港に隣接している
小屋に向かう。

「あ、シズク、おはよう」

入り口で出会った顔見知りの声に
小屋に居る皆が一斉に視線を向ける。

獲れた魚を捌いたり
漁から戻った者達が休憩する場所。

「ごごごごめんなさい」

「良いよ良いよ、
 そう言う日もある」
「よく眠れたかい」
「疲れていたんじゃない、大丈夫」

それぞれが掛けてくれる声に
頭を下げながら
顔が赤くなる。

「次から本当に気をつけて」

「次という問題じゃないだろ」

厳しい声に、シズクは顔を上げる。

「ユウヤ」

「俺達漁師がどれだけ験を担ぐか
 分かっているのか?」

「まあまあ、ユウヤ。
 シズクもわざとじゃないんだし」

「そうやって甘やかすからいけないんだ」

「………ごめんなさい」

「司祭様が代わりに占って下さった。
 まあ、お前の先視より
 よっぽど安心できるけどな」

「ユウヤ」

言い過ぎだ、と周りの者が止める。

「そう言ってやるな、
 お前の恋人だろう」

だから、余計にだ、と
ユウヤは言い捨ててその場を立ち去る。

「俺に恥をかかせるなよ」

「………」

シズク、と側に居た一人が
声を掛ける。

「ほら、ユウヤは口が悪いから」
「そうそう、
 素直じゃないからね」
「………うん」

ごめんなさい、と
再度皆に声を掛けてから
シズクも小屋を離れる。

「はあ」

分かっている。
悪いのはシズクで、
ユウヤは自分が酷く言うことで
それ以上誰もシズクに追求できないようにしてくれた。

この件はこれで、終わり、と。

「はあ」

それでも、
俺に恥をかかせるなよ、は
無いんじゃない。

ぎゅう、と胸が酷く締め付けられる。

「司祭様」

坂を登った所。
海を見渡すことが出来る高台に
司祭の家はある。

そして、そこは
普段のシズクの勤め先でもある。

「おお、シズク。
 今日はどうしたんだ。
 そろそろ様子を見に行かねばと思っていたが」
「寝坊してしまって」

「………」

うーん、と呟いた後
司祭は言う。

「シズク、今日はお休みにしよう。
 疲れていたんだ、ゆっくりしなさい」

その言葉にシズクはショックを受ける。

「ああ、あの、
 ごめんなさい。本当に」

「うん?」

「私、クビですか!?」

いやいや、と司祭は言う。

「何を言っているんだ。
 お前の先視の力を疑う訳じゃない」

鏡を見なさい、と肩を叩く。

「そんなに泣きはらした目では
 今日は仕事にならないだろう」


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