「お願いしていいかしら」
村人からもらった肉を、杏子が並べる。
「どれぐらいに、切り分ける?」
「小さくお願いしたいのだけど」
「いいよ」
湶は、ナイフを取り出し、肉をうまいこと切り分ける。
その様子を見ているのは、杏子だけ。
圭は、あの発作以来、横になっていることが多い。
「もっと、近くで見てなよ」
湶は云うが、杏子は首を振る。
「苦手だわ」
「そのうち、出来るようになったがいい」
杏子は、苦笑いをする。
云う。
「南一族の村で、肉の切り方を覚えたの?」
「いや」
肉を切り分けながら、湶が云う。
「肉のさばき方は、この前の狩りの後に広司に教わったんだ」
「そうなの」
「難しいことじゃない」
東一族の杏子は、肉を食べたことがない。
さばいたこともない。
その習慣がなかったのだから、やろうとも思わない。
でも
「覚えたばかりなのに、簡単にやるのね」
外での彼を、杏子は知らないが
湶は、なんでもこなしているようだ。
湶が切り分けた肉を、杏子は塩でつける。
これは、圭に教わったこと。
その作業が終わると、杏子は道具を片付け、手を洗う。
と
扉を叩く音。
「誰だ?」
「高子だわ」
杏子は扉を開ける。
そこに、高子がいる。
「いらっしゃい」
杏子は、高子を招き入れる。
「圭は寝ているけど」
湶の言葉に、高子が云う。
「今日は、杏子の診察なの」
湶は、杏子を見る。
「えーっと、じゃあ、そっちの部屋を借りようかしら」
「ええ」
杏子と高子が隣の部屋に移動したのを見て、湶は立ち上がる。
圭の部屋へと入る。
「起きていたのか」
圭の目が開いているのを見て、湶が云う。
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