中国国有の不動産開発会社、緑地控股集団(グリーンランド・ホールディング・グループ)は、ニューヨーク市ブルックリンの15棟のマンションプロジェクトの過半数権益を取得することで合意した。実現すれば、中国企業から直接大きな支援を受ける米国内の商業不動産開発プロジェクトとしては過去最大の規模となる。
このプロジェクトは、屋内競技場「バークレイズ・センター」などがあるアトランティック・ヤードに位置し、敷地面積は22エーカー。費用は債務を含めて40億ドル近くと予想されている。仮合意の条件によると、緑地は、同プロジェクトを立ち上げた米同業のフォレスト・シティ・ラトナーから権益70%を取得する。取得額は明らかにされていない。フォレストはこれまでに5億ドルを投資しており、総額で数億ドルとみられる土地・インフラの追加費用の負担を約束している。プロジェクトの運営も引き続き担当する。
このプロジェクトでは、マンションのほかにオフィスビル1棟と商業施設が建設される。取引が承認されれば、上海を拠点とする緑地は、建設のために負う債務を除くと、プロジェクト完成に必要な資金の70%を提供することになる。
今回の取引は、フォレストとロシアの富豪ミハイル・プロホロフ氏が共同所有するバークレイズ・センターに影響を及ぼすことはない。プロホロフ氏は、バークレイズ・センターを本拠地とする米プロバスケットボール協会(NBA)のブルックリン・ネッツにも過半数出資している。フォレストのメアリアン・ギルマーティン最高経営責任者(CEO)は10日のインタビューで「興奮している」としたうえ、「当社は緑地から、緑地は当社から学ぶことができると思う」と語った。
ギルマーティン氏によると、緑地とフォレストは先週、「覚書」に調印した。だが、詳細について交渉を重ねる必要があるほか、中国当局の承認を得なければならないため確定はしていない。フォレストによると、海外企業による買収計画を審査する対米外国投資委員会(CFIUS)の審査を受ける必要があるかもしれないという。フォレストは、アトランティック・ヤードでのマンション開発が遅れていることで非難されている。今年に入り、不動産サービス会社CBREグループに提携先探しを依頼した。オハイオ州クリーブランドを拠点とする、フォレストの親会社フォレスト・シティ・エンタープライジズのデービッド・ラルーCEOは9月の投資家向け電話会議で、アトランティック・ヤードでの物件販売で土地の代金以上に受け取ろうとは思っていない、と述べた。今回の投資案件は、中国企業による米国不動産への投資として新たに注目を集めそうだ。中国の富豪、張欣氏が先ごろマンハッタンのゼネラル・モーターズ・ビルの一部権益を取得した案件を含めると、中国企業による米国不動産への投資額は年初来で17億ドルに上る。不動産調査会社リアル・キャピタル・アナリティクスによると、11年は11億ドル、08年はわずか2200万ドルだった。
中国政府は、同国の外貨準備の運用の多様化に向けて国内企業の海外進出を奨励している。また、中国経済の減速に対する懸念が強まっていることもあり、不動産開発会社は対米投資をポートフォリオ多様化の手段と見なしている。中国企業の投資拡大は、米国の多数のプロジェクトの進展に寄与している。カリフォルニア州ではシグニチャー・ディベロップメントが4月、サンフランシスコ湾の河口沿いで行き詰まっている15億ドル規模のプロジェクトに資金を供給するために中国の投資会社、北京澤信控股集団と提携したと明らかにした。このプロジェクトでは3000戸余りの住宅と公園の建設が予定されている。
ブルックリンのプロジェクトへの中国企業の投資も、マンション開発を加速させるかもしれない。フォレスト・シティ・ラトナーは10年前のプロジェクト立ち上げ以降、進ちょくの遅れと予想を上回る費用に苦しんできた。
緑地との取引が完了すれば、同プロジェクトは新たな財源を確保でき、開発が進みそうだ。フォレストが海外に支援をあおぐのは今回が初めてではない。09年にバークレイズ・センターの資金繰りに困った時、ブルース・ラトナー会長はプロホロフ氏に声をかけ、ネッツの過半数権益とバークレイズ・センターの少数権益を購入してもらい、プロジェクトが破綻するのを防いだ。緑地は湖北省武漢市で高さ2087フィートの超高層ビルを建設している。完成すれば、現在、中国で最も高い上海環球金融中心(シャンハイ・ワールド・フィナンシャル・センター)を400フィート上回ることになる。
同社はまた、3月にオーストラリア・シドニーで広大な土地を取得。シドニーで最も高いマンションの建設を計画している