9月6日、第二地方銀行の島根銀行が資本提携を発表した。相手はネット金融大手のSBIホールディングス。SBI側が25億円を出資して、3分の1の議決権を握り、筆頭株主になるという内容だ。
島根銀行の鈴木良夫頭取は「新生島根銀行のスタートだ」と表現した。
その翌週13日には福井県が続いた。県内に2つしかない福井銀行と福邦銀行が包括連携をめざし協議を始めると発表したのだ。
(左)福井銀行 林正博 頭取 (右)福邦銀行 渡邉健雄 頭取
地銀の4割“赤字”の異常事態
地銀の経営は厳しい。金融庁によれば、貸し出しの利息や送金手数料など、銀行業の根幹にあたる「顧客向けサービス業務利益」は、全国105行のうち実に45行で赤字だという(2018年度)。
地方の人口減少、企業の廃業で顧客が減っている。しかも日銀のマイナス金利政策で貸し出し金利が下がり、利益を稼ぐことがどんどん難しくなっているためだ。
ではどうするか。再編・統合などによるコスト削減や合理化が「不可避だ」となる。実際、新潟県の第四銀行と北越銀行が、九州ではふくおかフィナンシャルグループと十八銀行が統合している。
とはいえ合併、統合にまで踏み込む動きは限られる。効率化のためどちらの銀行の店舗を閉めるのか、経営の主導権はどうなるのか…と二の足を踏むところが少なくないためだ。
地銀の現状に危機感を抱いているのが監督当局の金融庁だ。今のままで、将来にわたって収益を確保できるのか。地銀に経営改善を強く求める方針を打ち出している。
金融庁幹部は「コストを削減するか、新しいビジネスなどで収益を向上させるか、できなければほかにどういう手があるのか、地銀にじっくり聞いていく」と語る。各銀行との具体的な対話を始めているという。
島根銀行提携の舞台裏
SBIと資本提携に動いた島根銀行。金融庁から収益力の立て直しを強く迫られていた。それが異例の提携の背景の1つにある。
人口減少と低金利、それに島根県内で圧倒的シェアを誇る山陰合同銀行との競争にさらされ、厳しい経営が続いていた。
ことし年明け。年度末の決算に向けて試算したところ、本業のもうけを示す「コア業務純益」の3期連続赤字が確実となった。
数字をみた鈴木頭取は、独立路線から一転、他社との提携の道を模索し始めた。鈴木頭取が頼ったのがSBIだった。去年6月からSBI証券と投資信託の販売で業務提携していた関係があったからだ。
3月、鈴木頭取は東京に向かいみずから資本提携を提案したという。知らされていたのは銀行内でも数人だけという極秘交渉。「とんとん拍子で進んだ」(関係者)という交渉は、半年で合意にたどりついた。
ただ提携で、SBIは筆頭株主となって銀行に役員も送り込む。「創業から100年余り独立して営業してきただけに考え悩んだ」,鈴木頭取は提携は苦渋の選択でもあったと記者会見で明かした。
今後、島根銀行はフィンテックの分野でSBIから支援を受け、決済や送金を手軽にできるスマホアプリの開発なども行いたいとしている。
資産運用のノウハウを活用し、SBIグループの住宅ローンも扱う。その一方で強みのある地元向けの営業に資金や人材を重点投入して、収益改善の構想を描く。
地銀と組む、本当のねらい
SBIホールディングス 北尾吉孝 社長
ネット金融との提携は、苦境にたつ地銀の課題を本当に解決するのだろうか。SBIの北尾吉孝社長にも単独インタビューした。
「今、ひな鳥(地銀)が一生懸命、殻を破ろうと殻を下から突いている。親鳥(SBI)が上から突き、割ってひなをかえす。そして、今までの銀行と違った形で新しい生命体になっていく。そういうタイミングだと思っている」(北尾社長)
20年前に創業したSBI。ネット取り引きで格安手数料などを武器に金融サービスを提供。証券事業では今や大手の一角をなす。
北尾社長は「“ネットとリアルの融合”で地銀は再生できる」と語り、“第四のメガバンク構想”を掲げている。
複数の地銀と組んで、徹底的な効率化とむだの排除を進め、大手に並ぶ金融ネットワークを形成する、というアイデアだ。
例えば、銀行の基幹システムの開発や、マネーロンダリングなど規制対応を、地銀がばらばらに行うのには膨大なコストがかかる。これをSBIがまとめて担当すれば大幅な効率化が進む。地銀の資産運用もSBIが一手に行う。
一方で地銀は、地元の顧客対応に全力を注ぎ「ウィンウィン」の関係ができると見ている。北尾社長によれば、=
「将来、金融サービスにかかる手数料をゼロにして、膨大な客を取りに行く。地銀が本当に変わるんだと思うなら、できるかぎりのお手伝いはしていく」(北尾社長)
提携拡大に強い意欲をみせている。
証券大手もアプローチ
連携の動きはほかにもある。同じ島根県の山陰合同銀行は、大手の野村証券と提携した。野村から社員を受け入れ、地元の取引客向けの、証券サービスをてこ入れする。
野村証券にとっても、地方の開拓とコスト削減につながる。やはり第2、第3の地銀パートナー探しを加速させている。
山は動くのか
金融庁幹部は、ネット金融や証券会社が地銀にアプローチしていることについて、「一石を投じる動きで、大いに歓迎したい」と語る。
来年の東京オリンピック・パラリンピックの後には景気の落ち込みも懸念される。フィンテックの新興勢力も決済サービスなどに進出し、競争は激しさを増す。地銀の経営がおぼつかなくなれば、地方経済の悪化も招きかねない。