マツモトキヨシホールディングス株が10日の決算発表を機に急騰した。市場が驚いたのは2019年3月期の業績予想だ。連結営業利益は前期比6%増の355億円と市場予想(351億円)を上回った。上振れ幅は約4億円だが、同社は慎重な計画で有名な会社。珍しく強気な予想を出した裏には、大手百貨店に比肩する規模に成長した訪日客向け販売の手応えが隠されている。
「想定以上の数字。会社もそれだけ自信があるのでしょう」。国内運用会社のファンドマネジャーはマツキヨHDの業績見通しに目を丸くした。
同社の期初予想は市場予想を下回るのが通例だが、今期は4年ぶりに超えた。株価は発表翌日の11日に一時9%上昇。その後も上昇基調が続き、21日まで7営業日連続で上場来高値を更新した。
好業績をけん引するのは訪日外国人の消費だ。前期推定の免税売上高は670億円。訪日消費が百貨店最大の三越伊勢丹ホールディングス(675億円)に肩を並べる規模に成長した。今期は700億円を超え、サンドラッグなど同業大手の3倍以上になる見込みだ。
訪日客向け戦略の最大の武器は16年から始めた年300万人以上に達する訪日客のパスポートデータの分析だ。店舗ごとに国籍を調べ、実績に基づき柔軟に品ぞろえを変える。中国本土からの来客が多い大阪では化粧品を手厚くし、台湾からの客が多い北海道や九州では医薬品の売り場を増やすといった格好だ。
交流サイト(SNS)を駆使する販促活動も実を結んだ。中国最大手の対話アプリ「微信(ウィーチャット)」では同社の告知が50万人以上に届く。帰国後も買ってくれるよう越境EC(電子商取引)も強化。小部真吾取締役は「訪日前から後まで顧客接点を作るようにしている」と話す。
5月下旬の東京・有楽町の店舗。特大サイズの買い物袋を抱えた中国人が次々と店から出てきた。杭州市から訪れた30歳代の男性会社員の袋の中には、資生堂の洗顔料や参天製薬の目薬などがぎっしり。「5万円分を買ったけど、まだ足りないぐらい。マツキヨはSNSでも有名で来日前から知っていた」と話す。
データを重視する経営手法は、本社での採算管理にも生かされている。千葉県松戸市の本社では14年ごろから、毎月開催している経営会議で「従業員1人の1時間あたり粗利益」などの重要指標を店ごとに細かくチェックしている。石橋昭男取締役は「指標が良い店舗のノウハウを共有して、他の店舗にも取り入れるようにした」と明かす。
同社は1990年代に安さをウリにしたテレビコマーシャルをテコに業績を拡大。規模の追求に力を入れる一方で採算管理が不十分となり、2000年代後半から業績が伸び悩んだ。その立て直しに手間取る間に売上高は16年度にイオン傘下のウエルシアホールディングスに抜かれ22年ぶりに業界首位から陥落した。
一方、採算管理の徹底が奏功し、前期は営業利益ではウエルシアを47億円上回った。売上高営業利益率は過去3年で2ポイント改善。前期初めて6%台に乗せた。松本清雄社長は「ようやく攻めの体制が整ってきた」と話す。
訪日消費は円相場との連動性が強く、為替が円高に転じれば訪日消費が変調をきたす可能性は否定できない。長期的な成長軌道を取り戻すためにもデータ重視の採算管理の重要性は一段と高まっている。(野口和弘)