いぶし銀のやうな弦楽器の控えめな伴奏、森の奥から聴こえてくるやうな木管の音色、そこへエルナ・ベルガーの透き通るやうな歌声が響く。
1934年の録音で、レオ・ブレッヒの指揮する伯林歌劇場管絃團が伴奏を附けてゐる。「蝶々夫人」「真珠採り」などのレコヲドをグラモフォンに残したが、僕はこの「ソルヴェーグの唄」がもっとも好きだ。
歌ものはやはり歌詞の内容を知って聴かねばなるまい。この「ソルヴェーグの唄」は、哀れな老人となって帰ってきたペール・ギュントを、昔の恋人ソルヴェーグが優しく抱いて歌う。その歌を耳にしながら、ペールは死んでゆく、といふ内容だ。僕は、今日、病院で出会ったある少女にこの歌を贈る。
今日は、息子が喘息の発作を起こし、休養先の病院を転々とした。休養先でしかも祝日の診療といふこともあって、病院を3箇所もたらい回しにされたのだ。午前9時半に別荘を出て、3箇所目の診療が終わったのは、なんと日付が変わる数分前。転送先の病院に連絡がいっていなかったり、4時間も治療し、咳がひどくなると転送の指示が出たり。3箇所目に到着したのは23時。田舎のへっぽこ病院ではどうにもならない。3箇所目の医師は、医療機関の連携ミスを認めていたが、あんたに罪は無い。
そのやうな中、とても悲しい出来事があった。息子の点滴を待つ間に、救急で老人が搬入された。孫にあたる16・7歳の少女が同乗して来た。たった一人で救急車を呼んだのだろう。しばらくすると、母親が駆けつけて、娘の動揺を気遣った。少女の顔面から血の気は失せていたが、「もう少し早く呼んでいたら」と何度何度も後悔しては大きくため息をついた。しばらくして、主治医が来て言った。「搬送に時間がかかり過ぎたね。もう少し早ければなんとかなった・・・」その後、二人は呼ばれて部屋に入った。人工蘇生器の機械音が消えた。目を真っ赤にした娘が出てきて、何度も大きく深呼吸をしていた。僕は、老人のことはなんとも思わなかったが、この娘がかわいそうでかわいそうでたまらなかった。まだ、あどけない表情の残る少女の心に、あの無神経な医師の言葉が、どれほどの重みでのしかかっているか、僕はとても心配している。
娘よ、じいちゃんにはあなたの真心はちゃんと伝わっているよ。
盤は、墺太利プライザー社のSP復刻LP盤 LV234。
1934年の録音で、レオ・ブレッヒの指揮する伯林歌劇場管絃團が伴奏を附けてゐる。「蝶々夫人」「真珠採り」などのレコヲドをグラモフォンに残したが、僕はこの「ソルヴェーグの唄」がもっとも好きだ。
歌ものはやはり歌詞の内容を知って聴かねばなるまい。この「ソルヴェーグの唄」は、哀れな老人となって帰ってきたペール・ギュントを、昔の恋人ソルヴェーグが優しく抱いて歌う。その歌を耳にしながら、ペールは死んでゆく、といふ内容だ。僕は、今日、病院で出会ったある少女にこの歌を贈る。
今日は、息子が喘息の発作を起こし、休養先の病院を転々とした。休養先でしかも祝日の診療といふこともあって、病院を3箇所もたらい回しにされたのだ。午前9時半に別荘を出て、3箇所目の診療が終わったのは、なんと日付が変わる数分前。転送先の病院に連絡がいっていなかったり、4時間も治療し、咳がひどくなると転送の指示が出たり。3箇所目に到着したのは23時。田舎のへっぽこ病院ではどうにもならない。3箇所目の医師は、医療機関の連携ミスを認めていたが、あんたに罪は無い。
そのやうな中、とても悲しい出来事があった。息子の点滴を待つ間に、救急で老人が搬入された。孫にあたる16・7歳の少女が同乗して来た。たった一人で救急車を呼んだのだろう。しばらくすると、母親が駆けつけて、娘の動揺を気遣った。少女の顔面から血の気は失せていたが、「もう少し早く呼んでいたら」と何度何度も後悔しては大きくため息をついた。しばらくして、主治医が来て言った。「搬送に時間がかかり過ぎたね。もう少し早ければなんとかなった・・・」その後、二人は呼ばれて部屋に入った。人工蘇生器の機械音が消えた。目を真っ赤にした娘が出てきて、何度も大きく深呼吸をしていた。僕は、老人のことはなんとも思わなかったが、この娘がかわいそうでかわいそうでたまらなかった。まだ、あどけない表情の残る少女の心に、あの無神経な医師の言葉が、どれほどの重みでのしかかっているか、僕はとても心配している。
娘よ、じいちゃんにはあなたの真心はちゃんと伝わっているよ。
盤は、墺太利プライザー社のSP復刻LP盤 LV234。