茶道を大成した茶人・千利休が生まれ育った堺市と、利休が手がけた茶室で唯一の遺構とされる国宝「待庵」がある京都府大山崎町。ともに中世に繁栄するなど共通点があることから大山崎町の山本圭一町長が6月の議会で「連携を図りたい」と表明した。連携の機運を高めたい大山崎町だが、政令市である堺市とは人口や財政規模をはじめ、情報発信力に大きな差がある。相互連携を模索するためにも、大山崎町は観光情報の発信力を強化していく必要に迫られそうだ。
「堺市と何らかの連携を図ることができれば、互いに観光客の往来が期待でき、大変有意義だ」。町議会6月定例会で山本町長が答弁した。町は「まずは事務レベルで」と、観光パンフレットを相互に配置することを堺市に打診し、実現することになった。
2006年4月に政令市になった堺市は、人口83万人と同町の55倍。15年度の一般会計当初予算は3712億円で、同町の70倍に近い規模がある。
3月に利休と明治~昭和期の女流歌人・与謝野晶子を紹介する観光施設「さかい利晶の杜(もり)」をオープンした。施設の目玉は、1583年に山崎城に創建された当初の待庵を再現した「さかい待庵」だ。江戸時代のカレンダー「伊勢暦(ごよみ)」を茶室の壁に張るなど、大山崎の待庵とは異なる意匠を凝らす。すでに17万人以上が来場し、人気観光スポットとなっている。
見学していた五十川斗南さん(74)=岐阜県揖斐川町=は「2畳しかないのに、立体感があって広く感じる。本物の待庵はどうなっているのだろう。大山崎にぜひ行ってみたい」と声を弾ませた。
待庵を有する妙喜庵によると、すでに茶道に興味を持つ堺からの観光客がたびたび訪れているという。武田士延住職(83)は「再現茶室があることで、本物が残っていることも知ってもらえる。両市町で何かしらのつながりができるのはいいこと」と話す。
「さかい待庵」の集客をうまく呼び込むことができれば、町の観光振興の起爆剤になる可能性がある。町内では堺見学ツアーを模索する動きもあり、盛り上がりに期待する人は多い。一方で、行政の発信力の不足を懸念する声も聞かれる。
「少し前の映画『利休にたずねよ』が公開時はPRするチャンスだったのに、あまり盛り上がらなかった。堺市とうまくやれるか心配だ」。町内で観光業に携わる男性は不安を隠さない。映画は13年に歌舞伎俳優の市川海老蔵さんの主演で公開された。
連携を町に提案した西田光宏町議は「堺市にもメリットを感じてもらえるようなアプローチが必要だろう」と話す。ある観光関係者は「発信力を高めないと相手にしてもらえないのではないか」と打ち明ける。
町は本年度から企画観光係を新設。待庵に限らず、天王山やエゴマの独占販売で栄えた離宮八幡宮、昭和期の名建築「聴竹居」など、町の豊かな観光資源を戦略的にPRする狙いだ。今後の市との連携に向けた動きはまだ未定だが、関係構築には町全体の魅力を伝える情報発信力が鍵を握りそうだ。
【 2015年07月13日 10時10分 】