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グータ化学攻撃 ロケットは反政府軍の支配地から発射

2017-07-13 20:17:56 | シリア内戦

 

人権監視団は西グータの攻撃に使用された140mmロケットの射程距離を3.8km以上、9.8km以内としたが、東グータに着弾した330mmロケットの射程距離については触れなかった。国連の調査は発射地点の方向を調べただけで、ロケットの射程距離は調べていない。

事件から5か月後の2014年1月になって、元国連査察官が、330mmロケットの射程距離がきわめて短いことを発表した。射程距離は最大でも2.2kmであり、着弾地点からあまり離れていない場所から発射されたことになる。シリア軍はそれほど近い場所にいたのか。

化学攻撃の9日後、米政府は事件についての見解を発表した。ロケットはシリア軍の「支配地」から発射されたと述べ、地図を添えた。

 

この地図に基づき、元国連査察官リチャード・ロイドは政府軍の支配地の東端からザマルカまでの距離が6kmであることを知った。330mmロケットの射程距離は2.2km以下であり、政府軍の支配地からは、到底届かない。

 続いてリチャード・ロイドは着弾地点から2.2㎞の距離を地図に示した。ロケットの重量が重い場合、飛距離はさらに短くなり、1.7kmとなる。それも地図に示した。8つの着弾地点が黄色の十字で示されている。

ロケットは、むしろ反政府軍が発射した可能性が高い。

この衝撃的な報告を発表したのは国連の元武器査察官リチャード・ロイド(Richard  Lloyd)とマサチューセッツ工科大学のセオドア・パスタル(Theodore  Postol)教授の2人である。

(Possible implications of faulty US technical intelligence in  the Damascus nerve agent attack of August 21)

 2人はロケットの構成を調べ、弾頭内の液体の重さとロケットの総重量から、その射程距離を算定した。その結果、「米政府の主張は真実から遠い」ことがわかった。

リチャード・ロイドは報告の発表後の記者会見で、「反政府軍の化学兵器の能力は予想以上に高く、50リットル容量のサリンを積んだロケットを発射することは十分可能である」」と語っている。

 

しかしロイドとパスタルの結論には反論の余地がある。3枚目の地図をよく見ると、ほとんどのロケットは戦闘地域から発射されたことになっている。8月21日の時点でこの地域を支配していたのはどちらかを知る必要がある。客観的な立場のジャーナリストが出向いていない限り、最前線の状況を知るのは困難だが、ジョバル(Jobar)の北西部でシリア軍が攻勢を強め、ジョバルの境界まで迫っていたことが知られている。

上記3番目の地図には着弾地点が黄色の十字で示されており、北西の4つの地点はシリア軍によって攻撃されたかもしれない。南東の4つの地点については、発射地点付近にどちらの軍がいたのかを知らなければならないが、シリア軍は進出していない可能性が高い。 

注意すべきは、シリア軍がこれら8つの地点を攻撃するには、これらの地点の周囲を移動しながら発射しなければならない。あるいは数台の発射機を使用しなければならない。反政府軍が8つの地点の中心部から発射するなら、移動せずに8つの地点を攻撃できる。

 

米国は化学兵器の準備をしているシリア軍の位置を正確に把握しており、衛星の映像によりロケットの発射地点を確認したと述べている。発射地点を地図に書き込んでいたなら、決定的な証拠となった。それをせずに、「政府軍の支配地から発射した」とだけ述べた。そのためロイドとパスタルは地図上の支配地から着弾地点までの距離を測ったのである。

米政府が化学兵器準備を発見し、発射地点をも確認したことは決定的な証拠と言えるが、発射地点を示さなかったことは片手落ちである。

「シリア軍は化学兵器準備事件の3日前、アドラで準備を開始した」と米政府は述べている。

ダマスカスの東部と南部に反政府軍の支配地があるが、東北部のドゥーマを中心とする勢力が最大である。しかし彼らを取り巻くようにシリア軍の基地が存在している。そのひとつがアドラである。

 

====《米政府の評価:シリアの政権が化学兵器を使用》=====

Government Assessment of the Syrian Government’s Use of Chemical Weapons on August 21, 2013

3月21日シリア政府がダマスカス郊外で化学攻撃をした、と米政府は高い確実性を持って判断している。この攻撃で神経ガスが使用されたことも確実である。これは幅広い情報に基づく判断である。幅広い情報とは、情報提供者からの情報、通信傍受、衛星による映像、一般に公開されている大量の情報である。

情報源の保護とわれわれの方法を秘密にするため、すべての情報を公表することはできない。これから述べることは、公表可能な部分に限られる。   

      〈シリア政府がダマスカス近郊で化学兵器を使用〉

互いに独立した多くの情報が、8月21日ダマスカス郊外で化学兵器が使用されたことを物語っている。米国の情報機関が得た情報に加え、シリア内外の医師の報告、ビデオ、目撃証言がある。さらには、ダマスカスの12の地点から数千のネット情報、ジャーナリストや非政府組織の報告がある。

       〈事件の背景〉

シリア政府は昨年(2012年)戦略的に重要な場所を獲得し、それを維持しようとしながら行き詰まった時、打開の手段として化学兵器を使用した。シリア政府は化学兵器を空爆やミサイル

と同様なものと考えており、禁じられた兵器という意識がない。

ダマスカス周辺の反対派の支配地は首都を攻撃する足場となっており、政権はこの地域の反政府軍を駆除する作戦を始めた。

シリア軍はあらゆる通常兵器を投入したが、首都周辺の10数個の地区から反政府軍を追い出すのに失敗した。そしてこれらの地区のいくつかが化学兵器による攻撃の対象となった。

政権はダマスカス周辺の大部分が反政府軍に占領されたままであることにいらだった。このことが8月21日化学兵器を使用する原因となった。

       〈化学兵器の準備〉

シリア軍の化学部隊が攻撃の準備をしていると判断できる情報がある。攻撃の3日前、一連のスパイ情報、通信傍受、空からの偵察により、化学攻撃の準備とみられるシリア軍の活動を察知した。

8月18日ダマスカス北東のアドラでシリアの化学部隊が活動を始めた。これは8月21日の未明まで続いた。アドラはシリア軍がサリンなどの化学物質を混合する場所となっている。通常、サリンは2種類の前段階物質を保存し、使用時に混合する。

8月21日シリアの化学部隊はガス・マスクを着用して準備作業をしていた。

一方我々の情報源によれば、反政府軍は化学兵器を準備している兆候がない。

         〈化学攻撃〉

多方面からの情報は、8月21日の未明シリア軍がダマスカスの郊外を砲撃し、ロケットを発射したことを示唆している。宇宙衛星の画像はこれらのロケットがシリア軍の支配地から発射されたことを傍証している。化学攻撃の目標となった場所はカフル・バトナ(Kafr Batna)、ジョバル( Jawbar)、アイン・タルマ(Ayn Tarma),ダラヤ(Darayya)、ムアダミヤ(Mu’addamiyah)などと言われている。

これらの情報に加え、化学攻撃についてネットで最初に発表される約90分前、我々は政府軍の支配地からロケットが発射されるのを確認している。この時軍用機は現地を飛行しておらず、ミサイルの発射も確認されていないので、シリア軍が地対地ロケットを使用したは間違いない。

地元のソーシャル・メディアには午前2時30分に化学攻撃について最初の報道が現れ、その後の4時間、ダマスカス周辺の12の地域から数千の報告があった。反政府軍の支配地域に着弾した化学ロケットについて、数多くの証言がなされた。

ダマスカス地域の3つの病院が、約3600人の被害者を受け入れた。これらの被害者たちは一様に、神経ガスが原因の症状を示していた。

========================(米政府終了)


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