梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

巡業日記20・名古屋の巻

2005年07月23日 | 芝居
本日は、宿泊地でもある名古屋市『愛知厚生年金会館』での二回公演でした。ホテルから会館までは、地下鉄と徒歩で二十分ほど。通いは楽でした。

今日の会舘は、舞台も広く、楽屋もきれいでございましたが、舞台と楽屋の階が違うので、移動に苦労いたしました。一階分の階段の段数が多く、しかもいくつも踊り場があって折り返しの連続。これでは時間もかかりますし、第一、扮装をした状態では昇り降りが大変です。
今月は『吉野山』と『口上』の間で十分間、『口上』と『与話情浮名横櫛・見染めの場』の間が十五分間、『見染め』と『源氏店の場』の間が十分間の幕間となっておりますが、幹部俳優さんのなかには、『吉野山』と『口上』とか、『口上』と『見染め』というふうに、続けて出演されている方が多く、当然その都度化粧や扮装を変えなければなりません。師匠梅玉も、『口上』『見染め』『源氏店』という三つの幕にたて続けで、それぞれ違うこしらえで出演しております。

先に挙げた短い幕間時間で、素早く化粧を変え、衣裳を着替えての、いわゆる<早拵え>になるのですが、今日の会舘のように、移動に時間がかかってしまうような場合ですと、いちいち楽屋に戻る手間を省くために、<拵え場>という臨時の扮装スペースを作ることがございます。舞台裏で空いている場所を見つけ、そこに<上敷>というゴザを敷き、ライトをつけた姿見を置き、机を用意して必要な化粧道具を並べれば、これでもう完成です。単に衣裳を変えるだけならば、机や化粧道具はいりません。
師匠につくお弟子さん、付人さん、そして衣裳さんや、床山さんといった扮装に関わる裏方さんが待機し、普段の楽屋での拵えと同じ作業が行われるわけですね。

今日、師匠梅玉は、『口上』から『見染め』への間と、『見染め』から『源氏店』への間、計二回の扮装変えを、この<拵え場>で行いました。化粧も変わりますので、必要な化粧道具は『口上』のための化粧が済んだ時点で<拵え場>に移しました。
この他にも、小道具一式、肌襦袢や着肉などの下着類、頬かむりの手拭と湿らせるための霧吹き、休息用の<高合引>、おか持ちなどなど、結構たくさんのアイテムを、本来の楽屋から移しましたが、どれか一つでも忘れると、大慌てで取りに戻るハメになるのでうかうかできません。皆で責任をもって分担し、確認しながらの移動作業となります。

今日は無事忘れ物なく済みましたが、過去には「あっ、アレがない!」と急ぎ楽屋へ駆け戻ることもございました。<拵え場>での仕事は、時間に追われてせわしないものですし、忘れ物や不備がないかとあれこれ気を揉むもの。たとえ何事もなく終わっても、なんだかいつもより疲れたような気がいたしますね。

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