梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

梅之博多日記20・『映画の話』

2006年02月17日 | 芝居
あいかわらず『女伊達』では悩んでおりますが、だんだんと、先輩方からの教えがわかりかけてきた感じです。とはいえまだまだ未熟未熟。飲み込みが遅いので我ながらもどかしいですが、もう少し自分をいじめましょう!
さて昨日の『祇園鉄なべ』では、女将さんのご親切もあり本当にお腹いっぱい食べさせていただきました。俳優の中尾彬さんがお一人でいらしてました。テレビの取材のお仕事で、博多にいらしたそうですが、ミーハーな私、あの方のトレードマークのねじりマフラーを見て大興奮でした。

さて、先日、先輩の女形さんから『面白いから観てご覧なさい』と、成瀬巳喜男監督『流れる』のDVDをお借りしました。マンションのパソコンで夜寝る前に観ましたが、いや~面白い! 洋画邦画にかかわらず、あまり映画を観ない私ですが、約二時間、白黒画面に引き込まれました。
大川端沿いに居を構える芸者置屋<つたの家>。家運が傾きかけているものの、女将のおつた(山田五十鈴さん)の切り盛りで、抱えの染香(杉村春子さん)やなゝ子(岡田茉莉子さん)達と共に、なんとかなりたっておりますが、金銭を巡る苦労は絶えません。そんな所に、夫を亡くし、職を求めてやってきたのが梨花(田中絹代さん)。梨花はここで女中として働くことになりますが、彼女はここでの日々の中で、今まで知ることのなかった、置屋、芸者のリアルな生活を見ることになるのでした。
物語では劇的な展開もクライマックスもありません。ただ淡々と、誰も気がいていないゆるやかな破綻とともに、置屋の人々が泣き、笑い、策謀をめぐらし、とにかくその日を過ごしてゆく。それがなんともいえない妙味をともなっているのがすごい。
くわえて女優陣の着物の着こなしや、仕草の自然さ。あれはもう演技以前の本人の日常動作なのでしょうね。ちょっとした動きが、いかにも芸者の風情で見とれます。それに出演している皆さんの、日本語の美しさも忘れられません。少なくとも、今、テレビや映画館で聞こえてくるソレとは、あきらかに次元の違うものだと思われました。

古き良き日本の文化を描きながら、決して単なる懐古ではなく、滅びつつあるものとしても捉える冷徹な視線もあり、そこが作品に深みを増しているのではないでしょうか。個人的には、おつたの店の経営乗っ取りを密かに考えている昔の芸者仲間、お浜を演じていらっしゃる栗島すみ子さんの演技にうならされました。

映画といえば、博多座からほど近い、キャナルシティーという大型ショッピングモールの中に、シネコンがございまして、オールナイトやレイトショーなど、様々なプログラムで興行しておりまして、博多座出演中の人たちもちょくちょく足を運びます。今『THE 有頂天ホテル』が、午後十時開始の回があるので、いつか観に行こうと思っております。

今日は全然お芝居のお話ができませんでした。せめて写真だけでもということで、楽屋内に置かれた<衣裳棚>を。衣裳を運ぶためにいれる<ボテ>という行李の蓋や本体をうまく使って、このような仮ごしらえの棚が出来上がります。入っているのは、腰元の衣裳ですね。

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6 コメント

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Unknown (はつ風)
2006-02-17 17:34:28
BSで成瀬監督の特集を見ました。 流れる

も随分前に見ました、先日は 夫婦 を観ました。仰せの通り慎ましやかな暮らしでも言葉はとても美しく交わされていますね!

歌舞伎界の方はどこに出演されていても話され振りが控えめな気がします、それがとても素敵に思えて・・・
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ホレボレしますよね。 (アコ)
2006-02-18 00:38:31
私も「流れる」を見ました。DVDも購入したほど大好きな作品の一つです。



梅之さんと同じ意見でお浜さん演じる粟島すみ子さんの演技にびっくりしました。今、これほどの風格を持った女優さんはいないでしょうね。たった一つの視線であの風格を醸し出していて素敵だなぁと思いました。



そうそう『有頂天ホテル』、とてもよかったです。腹を抱えるほどでもないけれど、無駄なものはなく、見終わったときに満腹になる、とってもおいしい映画でした。

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舞台で (しゅう)
2006-02-18 05:47:08
「流れる」はかなり前に舞台で拝見いたしました。

この時は梨花が乙羽信子さんでしたが 名前を尋ねられて「梨花です‘なし‘の‘はな‘です。」っておっしゃるところがあって その後、杉村春子さんの染香が「なしのはなさん」って呼ぶんですけれど べつにどうと言う事もないのでしょうが 今でもスゴク印象に残っています。

それと山田五十鈴さんの三味線の音に鳥肌が立ったのを覚えております。

上手く言えませんけれど 感覚的にスゴイなと思いました。

懐かしいです・・・こういう舞台はもう見られないでしょうかね。

長くなりました、すみません。



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確かテレビでも (寅女)
2006-02-18 22:33:56
「流れる」はテレビドラマでも見た覚えがあります。そのとき梨花は三益愛子さんでした。原作の小説もお読みください。戦後のある時期の感じが的確に捉えられていると思います。私は中学1年の時、テレビで見たので小説を通っていた千代田区の某私立女子校の図書館で借りてきたら、親から「もう少し大人になってからにしたら」といわれました。
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つた奴の娘 (梅ごよみ)
2006-02-19 12:28:52
勝代はデコちゃんで私も大好きな映画です。

幸田文の原作もいいですよ。

私の中では、戦後の小説ベスト10に入ってます。

ちなみにデコちゃんと成瀬巳喜男の「女が階段を上る時」も、まだごらんになってなかったらぜひぜひ。

この女優と監督のコンビは木下恵介とのコンビ以上だと確信しております。
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はつ風様、アコ様、しゅう様、寅女様、梅ごよみ様 (梅之)
2006-02-21 16:31:41
コメント頂き有り難うございます。

皆様のお話をきいて、原作や、舞台版も見てみたくなりました。女形の先輩からは、『乱れる』と『乱れ雲』もお借りしております。今月中に見終わるでしょうか?
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