梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

開幕を告げる音

2007年01月23日 | 芝居
『勧進帳』をはじめとする多くの<松羽目もの>のお芝居、そして『口上』のひと幕は、「片シャギリ」という鳴り物で幕を開けます。太鼓と能管による構成で、単調なリズム展開ですけれども、おごそかな雰囲気や儀式性が感じられ、この鳴り物が聞こえてきますと、(これから始まるぞ)と居住まいを正したくなるような気がいたします。
この鳴り物で幕を開けるさいは、まずチョン、チョンと柝が直されてから演奏がはじまり、ひととおり演奏が終わってから幕を開けはじめるのが通例(幕が開ききったところで止め柝のチョンが入ります)で、普通のお芝居のように、下座唄やお囃子の演奏と、刻まれてゆく柝の音の中で幕が開いてゆくのとはまた違った趣きになりますね。
ですから、公表されている開幕時間より少し早くから、「片シャギリ」の演奏は始まっているのですが、伺いますとだいたい2、3分は、演奏を聞かせるのが普通のようです。
この鳴り物は、中間部分は同じフレーズの繰り返しで、実はいくらでも演奏し続けることが可能です。ですので、演奏が始まってからの、舞台上でのスタッフや出演者の準備の進行具合(不測の事態がおこることもありますしね)や、お客様の着席率の様子によっては、長く演奏して時間に余裕を持たせることもございます。定刻になった、あるいはすべてが準備OKとなったら、柝を打つ狂言作者さんがお囃子部屋に向かって開幕する旨を告げると、囃子方さんはそれまでの同じフレーズの繰り返しから、最終フレーズへと演奏を移すというわけです(長く続いた演奏を終わらせることを、あげる、と申します)。

今月『勧進帳』の後見を勤めさせて頂いておりまして、この「片シャギリ」が聞こえてまいりますと、さあ1時間頑張ろう! と気合いが入ります。そして、この鳴り物で幕を開ける演目にふさわしい、品と落ち着きにも気をつけなくちゃ…とも。
舞台の神様にお参りするような気持ちで、臆病口の裏に控えております。

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