梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

どれもおめでたい品でして

2009年01月18日 | 芝居
『寿曽我対面』で、花道から登場する五郎十郎兄弟が手にしているのは<島台>と申しまして、州浜型の台の上に縁起のいい景物を乗せた、祝いの場の飾り物ですが、今回の上演では、乗せる飾りは<宝尽くし>となっております。
五郎が、“小槌”、“宝鑰(ほうやく)”、“筒守(宝巻)”、“丁字”。
十郎は、“金烏帽子”。

小槌は“打ち出の小槌”なんて話もあるように、願いが叶うアイテム。宝鑰は鍵のことで、財産がたまるように。ありがたいお経を書いた巻物が宝巻で、それを筒に納めたものが筒守だそうで。丁字は香辛料のクローブのことで、香りも良く、また薬効もあり、平安時代に我が国に渡来してからは大変貴重なものとして尊ばれました(昔、薬師寺で写経をさせていただきましたとき、心身を清めるためということで、この丁字を口中に含みながら行いました)。
烏帽子は高い身分の象徴ということで、出世するようにとの願いをこめて。

いずれも、お芝居の小道具らしく、彩りも派手に作られております。

…さて、さきほど<今回の上演では>とお断りさせて頂きましたのは、ご存知のお方もおいでかとは存じますが、主演なさる方によりまして、この飾り物がガラリと変わることがあるからでございます。
と申しますのも、古来、江戸三座で『対面』を上演する際には、それぞれ独自の飾り物だったそうで、先ほどご紹介しました当月の<宝尽くし>は市村座のものなのだそうす。
森田座は<松竹梅>で、五郎十郎ともに、松の枝を中央に据え、根元に竹の葉、左右に紅白の梅の花を挿したものを持ちます。
中村座は<大工道具>で、墨壷と差し金なのだそうです。

森田座式のものは、昨年2月の歌舞伎座での上演時に、大和屋(三津五郎)さんの五郎、成駒屋(橋之助)さんの十郎のおりに使用されましたね。昔、成駒屋(翫雀さん、扇雀さん)ご兄弟が南座でお勤めになった時もこれでした。
中村座式は拝見したことがございません。というか、相当久しい間使用されていないと思うのですが。どんな形なのかな?

江戸三座というものがすでに存在しない以上、厳密な古式というものはないといえるのかもしれませんが、主演なさる方の家系と申しましょうか、伝えられる芸の流れに基づいて選択されていることが多いようですね。
…それにしても、市村座式、どうして五郎ばっかりてんこ盛りなのカナ。


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