梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

カッコいいワル

2007年02月16日 | 芝居
定九郎は典型的な<浪人>スタイルです。
月代がのびた<むしり>といわれる鬘、黒の五つ紋付きの着付を素肌にまとい裾を尻端折り、帯は白献上を<割りばさみ>に締めます。大小刀を<落とし差し>にした様は、なんともニヒル、悪の華といった趣きです。
多くの歌舞伎解説書で、この定九郎の黒の着付の素材を<黒羽二重>としているのを拝見しますが、たしかに初代の仲蔵が明和3年9月市村座興行において考案したのは黒羽二重の着付なんですが、現在では<黒縮緬>を使うことが多うございます。資料をひもときますと、9代目の市川團十郎さんのときから使われだしたようですね。羽二重地のように、照明を受けて光ることがないので、より雨に濡れた感じが出るのと、まくった袖が落ちにくいなどの利点があるそうです。
同じように、刀の鞘の色も、仲蔵考案は<朱色>なんですが、九代目團十郎さんは<蝋色>、深い黒色だったそうで、現在2通りのやり方がございます。今回師匠は蝋色の大小を使っています。いずれにしても、刀身は本身。その重さ、光り方、質感で迫力が増します。
ちなみに9代目さんは帯も紺献上だったそうですが、こちらは今ではあまりみられませんね。
定九郎の紋は、苗字からとった<斧のぶっ違い>。手斧が2本交差したデザインです。

背中側の帯には、雪駄が挟んでありますが、これは雨で地面がぬかるんだので、汚れを厭って脱いだという心。普通の雪駄を左右をひとつに重ねて挟んだのでは、厚くなりすぎて格好がつかないので(死んで舞台に寝たときにゴツゴツあたってしまいもする)、最初から、左右を重ねたような形に一体化し、しかも薄く作られた<挟む専用>のものを使います。
与市兵衛を殺したあと、花道へ行く途中で拾う蛇の目傘は、いたるところ破れておりますが、これは何度か舞台で使われた普通の状態のものを、役者の好みで自由に破って仕立てます。2、3本骨ごととることもありますし、ようは見た目に凄みが出れば
いいのです。糸が通っている縁以外は、思いのほか簡単に破れますよ。

衣裳のことでいえば、昨日お話しした、口から垂らす血糊を、足ではなく、白羽二重のサガリ(褌)に垂らすやり方もございます。そのさいは、公演ごとにサガリを新調するようですね。昔、国立劇場の鑑賞教室で、あちらは1日2回公演ですから、ひと月で50枚(!)ちかくも使ったというエピソードを、今日先輩から伺いました。

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