梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

大恩あるお主からの

2008年11月10日 | 芝居
『寺子屋』で、いよいよ松王丸と春藤玄蕃が実検にやってくるという段になりますと、源蔵・戸浪夫婦は若君菅秀才を押し入れの中に隠して、いったん上手の障子屋体に引っ込みますが、その際、源蔵は神棚の中からなにやらを取り出して懐に大事そうにしまいますね。
あれはなにかと聞かれることがたまにあるのですが、これこそ源蔵にとっては若君の次に大切な、<伝授の一巻>なのでございます。

普段はあまり上演されない「筆法伝授」の場が出ますと、この一物の大切さを観客の皆様により伝わると思うのですが、そうもいかないので以下簡単に。
…御法度だった家中の恋愛を咎められて勘当の身となっていた武部源蔵と戸浪夫婦が、久々に菅丞相の館へ呼び出される。源蔵は、その腕前を見込んだ丞相からの課題を、出しゃばり弟子の左中弁稀世の妨害をものともせずこなし、見事書の道の奥義を記した巻物を手渡される。(このあと若君も預かることになります)…

不義をはたらき、本来ならばお手討ちにもなろうかという身を救ってくれた主君菅丞相のために、全てを捧げる覚悟の源蔵夫婦。お家断絶の危機にある菅家から伝授された一巻は、まさに宝物、いやそれ以上のかけがえのないもの。日頃は神棚にまつりあげ、危機に瀕しては肌身につけて守り抜くという気持ち。とってもよくわかりますよね。

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