梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

巡業日記17・出雲でサイクリングの巻

2005年07月19日 | 芝居
本日は、島根県出雲市への「移動日」でした。新幹線と伯備線を乗り継いでの約四時間の道中ですが、公演があるわけではございませんので各人自由行動のようなもの。今日中に出雲のホテルにチェックインできるように予定を組んで、各自切符の乗車変更をされていたようです。
さて私は、仲間や付人さんとの計五人で、午後一時ごろに出雲に着く電車に乗り、当地での半日を、サイクリングで楽しむことにいたしました。
本日のホテル『ツインリーブスホテル出雲』に、とりあえず荷物を預け、駅前のレンタサイクルで自転車を借り、出雲大社をめざします。大社までは約七キロ。整備されたサイクリングロードがあるので安全、安心ですが、今日の天気のなんと暑いこと! 三十度を越す気温に、梅雨明けした真夏の日ざしが降り注ぎます。
百円ショップで帽子を買っておいて大正解。それでも漕ぎ出してしばらくすると汗が額に浮かびます。
道のりは、駅から離れるにつれて商店から住宅地、そして小さな工場や畑へとその姿を変えてまいります。とくに美しい風景や珍しいモノがあるわけでもないのですが、風を切って走る爽快感を久しぶりに味わえました。

昼ご飯を食べずに出発しましたものですから、一行は小一時間ほどでバテ気味に。途中サイクリングロード沿いを流れる高瀬川の河原や、長浜海岸(実に久しぶりに海を見ました!)の展望台で休憩をとりながら進みますが、どうにも出雲大社は見えてまいりません。もう限界、というダンになってやっと大社への入り口を発見。進んでゆくと、今は廃線になったものの、<日本最古の木造建築駅舎>として残されている「旧JR大社駅」の向いに『手打そば本家 大梶』という蕎麦屋を発見、早速入ることにいたしました。出雲はいわゆる<割子そば>が定番だそうで、これを全員注文。三段の器に、海苔、浅葱、紅葉おろしを添えたやや太めの蕎麦が入れられて運ばれました。麺に直接ツユをかけて頂くわけですが、蕎麦の歯ごたえ、やや甘めのツユの風味、飾らない味わいが大変美味しく、空腹も手伝ってか、さらに二杯追加してしまいました。「そのまま飲んでも」と出された蕎麦湯がこれまた濃厚、ただ湯がいただけの汁がこの味なのですから、麺の美味しさにも納得がゆきましょう。

腹ごしらえもすんでやっと力を取り戻し、午後三時に到着した出雲大社。三年前の巡業の時も参拝いたしまして、これでニ度目なのですが、今回はゆっくりと観て回ることができました。「因幡の白ウサギ」など、神話の一部分を再現した銅像があったのに初めて気がつきましたが、あらためて、広い境内に満ちみちた神さびた空気と、ゆったりと流れる時間に、「神話の古郷」出雲を実感。そういえばここ出雲大社は、参拝時には、ニ礼、「四拍手」、一拝なのですね。それから面白いのは、拝殿に張られた注連縄。この注連縄から垂れ下がっている、藁を房状に束ねた形のモノに、下からお賽銭を投げ付けて、うまく刺さって落っこちないと縁起がよいとのことでございます。三年前は何度やってもうまくいかなかったのに、今回は二回目にしてスンナリと刺さってくれました。お土産に、家内安全祈願の木札を頂いてまいりました。

参拝後は再び自転車で、『島根ワイナリー』へ。実際にワインを製造している過程が見学できます。ガイドがつくわけではございませんが、広いガラス窓越しに、搾汁機や発酵器、流れ作業で瓶詰めにする設備など見ることができ、なかなか面白かったですが、なんといってもここでのお目当ては、当工場製のワインの無料試飲でございます。赤、白、ロゼ、十種類ほどのワインを自由に試すことができます。とはいえ帰りも延々自転車を漕ぐ身とすれば、チビチビと一口二口味わうくらいが精一杯です。それでもだんだんとホンワカとした気持ちになってしまい、これはいかんとベンチでひと休み。不思議なものでアルコールが入ると、それまで気がつかなかった疲れがどっと感ぜられてきてしまい、正直帰り道はクタクタになりました。

一行事故にも会わず道にも迷わず、無事ホテルにたどり着いたのは午後五時半ごろでしたでしょうか。約四時間のサイクリングは、メンバーのキャラクターのせいか、面白おかしい珍道中となりましたが、とても楽しいものとなり、少々の疲れもこの際どうでもよいくらいです。

夜は、先日とはまた違う幹部俳優さんのお食事会に御招待頂きました。実は私、昨日十八日が誕生日だったのですが、実は高砂屋の門弟はみな七月生まれでして、今日のお食事会には門弟一同ご招待いただいておりましたので、そのお祝いまでしてくださり、御心づかい本当に有り難く、この場をお借りしまして御礼申し上げたいと存じます。

御承知ではございましょうが、当地は歌舞伎の祖、出雲の阿国の出身地とされております。明日はこの歌舞伎ゆかりの土地での公演となります。常にもまして、気を引き締めて勤めたく思います。

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