梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

巡業日記18・出雲の巻(本編)

2005年07月20日 | 芝居
本日は出雲市『出雲市民会館』での二回公演でした。御承知の通り出雲は歌舞伎の祖、出雲の阿国の出身地。その御縁もあってか地元の方々の歌舞伎に対する御支援も並々ならぬものがございました。会館前には出演者の名前を染め抜いた幟が並び、会館正面入り口には、いわゆる<招き>と呼ばれる、庵型の看板に出演俳優の名を勘亭流で書いたものが掲げられ、その両脇には「歓迎 出雲阿国歌舞伎」の立て札が。二回公演ながらお客様の入りも良く、有り難いことでございました。
楽屋内のケータリングサービスにも、普段の飲み物、お菓子の他にも、果物や巻寿司、ドーナツ屋さんのドーナツまで並び、二回公演の身としては、ちょっとした栄養補給に、大変有り難かったです。

今日の出雲は昨日に引き続き快晴&猛暑でございました。昨日公演がなかったため、一昨日の汗が染み込んだままの舞台衣裳や、各自の部屋着が、いっせいに天日干しされました。巡業中は基本的に、毎日会場内のどこかに<干し場>といわれる物干スペースを設置しまして(作るのは運送屋さんの係り)、重しをつけた支柱にロープを張ったり、あるいは植え込みの街路樹の、枝から枝へとロープを張って作ります。舞台衣裳は相当に演者の汗がしみこんでしまい、放っておくと変色、いたみ、ヘンな話ですがニオイの元になりますので、できる限り乾燥させなくてはならないのです。衣裳さんは専用の簡易乾燥機を持参しておりますが、いっぺんに対応できる数にも限りがございますし、たとえば我々の花四天の衣裳などは、着用する各自の管理になっておりますので、お日さまの力を借りて、また気持ちよく着られるようにするというわけです。

また<干し場>があるからには当然<洗い場>もあるわけで、洗濯用にニ層式洗濯機を一台、そして曇天や雨の日用に乾燥機を一台、巡業公演用に用意しております。これらは公演関係者全ての人のためのものなのですが、これがあるからこそ、幹部俳優さん方の付人さんたちが、師匠の舞台用肌着を毎日洗うことができるのですね。一昔前などは、こうした用意もなく、付人さんたちはわざわざ自分の泊まる宿で手洗いしていたそうで、往時の苦労が偲ばれます。このような洗濯機や乾燥機は、行く先々の会館から、いちいち電源や水道を引いて使用するのですが、時には接続の不備からか、ホースが外れて辺りが水浸し! というアクシデントもあったりいたします。また、洗濯機があるといえど、簡単な肌着や、化粧中に使用する手拭きなどの小物は、今でも手洗いで済ませることが多いです。

ともかくも、何かと不自由の多い旅の空の下の公演を、できるだけ普段の通りに仕事ができるようにするために、巡業一行の裏方さん、現地会館のスタッフさんの、様々なお骨折りがございます。そのおかげをもちまして、私達役者は、毎日気持ちよく舞台を勤められているわけでございますね。

たまに、表に出した衣裳を着る直前まで干しっぱなしにしてしまい、あわてて取り込み着込んだら、あまりのポカポカさに、着ただけで汗をかいてしまうこともございます。何事にも、限度というものはございますね。

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