梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

梅之名古屋日記・2

2008年03月31日 | 芝居
どうやらネットにつながらないのは私のパソコンや設定の仕方が問題なのではないようで、同じ物件に住んでいる同期のパソコンも同様の事態だそうで、マンション一括管理の回線になんらかの支障がおきているようです。
そんなわけで当分『梅之名古屋日記』は近所のネットカフェからお送りすることとなりそうです。

名古屋御園座<陽春歌舞伎>公演は、明日いよいよ初日を迎えますが、そんなこんなでお稽古の様子をお伝えできませんでしたので、駆け足の文章になってしまうかもしれませんが、以下に3日間の名古屋でのお稽古風景を記しておきたいと思います。


《3月29日》

午後1時からの<顔寄せ>に間に合うように名古屋入り。公文協の西コースや中央コースでは何度か来ていましたが、御園座の本興行に出演するのは実は5年ぶり。平成15年10月の、加賀屋(魁春)さんの御襲名興行以来なのでした。
御園座さんはこの前からちっとも変わっていませんでした。地下の食堂街も、2,3変わった店舗がありましたが、ちょくちょく昼ごはんを食べにきていた<淡水飯店>をはじめ、なじみのお店はそろって健在で嬉しかったです。
このさらに下の階にある<エメラルドホール>という多目的室が、稽古場として使用されます。なかなか広々とした部屋で、その場に出番のない役者も大勢控えることができます。

さて『源太勘当』『与話情浮名横櫛』『鬼平犯科帳 大川の隠居』の2回目の<附立>、『閻魔と政頼』の<総ざらい。>
『源太勘当』の腰元は、あまり細かい演技をしてはいけない時代物の演技とはいえ、百人一首に打ち興じる女たちの楽しさを出すための<思い入れ>はきちんとするようにと、同役の先輩からご指導をいただきました。捨て台詞(台本にない言葉)を言うとか、表情を変えるとかいうのではなく、隣の人とうなづき合うとか、離れている人の様子を見るとかいう、色々な気持ちを込めた<仕草>で雰囲気をつくるということです。私どものような若輩が勤めると、ともすれば無感情無表情のようになってしまいがちな<居並び>の腰元も、先輩方は分をわきまえた上でゆきとどいた演技をしていらっしゃる。そんなことが改めてわかりました。

その点、『与話情浮名横櫛』の「見染め」の貝拾いの女の演技は、世話物の通り流しでございますから、好きに台詞をいい、仲間同士で考えた芝居で場をつなぎます。このたびは花道で与三郎、鳶頭の2人とすれ違う娘ですので、どんなふうに芝居しながら引っ込もうか、あれこれ考えたり。こういうのはなかなか楽しい作業です。


《3月30日》

『閻魔と政頼』の<初日通り舞台稽古>に『源太勘当』『与話情浮名横櫛』『鬼平犯科帳』の<総ざらい>。
『閻魔と政頼』での裃後見は当然ながら初役でして、師匠もお出になっていない芝居に後見をさせて頂くことは有り難くもありまた緊張もいたします。
なにしろ、曲がりなりにも10年師匠と一緒に舞台を勤めておりましたら、師匠のイキと申しましょうか、合引に座る間(ま)ですとか小道具の受け渡しの仕方などが、なんとなくでも感覚的にわかってくるものですけれど、今回は高嶋屋(左團次)さん加賀屋(松江)さん萬屋(種太郎)さんといった方々のご用事をいたしますから、皆様に対しまして、どのように仕事をすれば支障なくゆくのか、それが大変難しいのです。
もっと経験をつんでいれば「ドンと来い!」なのでしょうが、師匠の後見だってまだまだ初心者マークなのですからね…。ともかくも舞台稽古は無事勤めることができましたが、後見の舞台上での動線、きっかけのとり方には、もう少し改善が必要でしょう。まだ2演目という出来立てホヤホヤの作品ですが、曲はだいたい覚えましたから、本番の舞台上での試行には問題はないでしょう。
1昨年歌舞伎座の『藤戸』に続き、播磨屋(吉右衛門)さんのお家の裃を着ることができましたのも、ご縁でしょうか。今回は後見も化粧をいたしますので、さらに品よく綺麗に仕事をしたいものです。

《3月31日》

『源太勘当』『与話情浮名横櫛』『鬼平犯科帳』の<初日通り舞台稽古>。
3回化粧をして2回お風呂に入った1日。ちょいとバタバタいたしました。
『源太勘当』の腰元は、仕事はほとんどないのですけれど、幕開きの一くさりの台詞で、このお芝居の雰囲気や位取りが決まると思うと、一言の台詞やちょっとした物腰にも油断はできません。先月先々月の仲居とは違って、ピシッとしたところがございませんとね。久しぶりの<鴇色の腰元>の扮装ですが、こういうものが自然に身に添うようになるまではまだまだ時間がかかりそうです。とにかく品よく…。

『浮名横櫛』の「見染め」衣装と鬘にあわせて、とりあえず若めの化粧をしてみましたが、不安だったので名題の女形さんの楽屋にお邪魔して具合を見ていただきました。「もう少し綺麗にしたほうがいいのでは」とおっしゃって下さいまして、居合わせた床山さんにも、鬘の飾りもののことで、「こうしたら、より“らしくなる”」アドバイスをしてくださり、本当に助かりました。
芝居のほうは、道具変わりと皆々の登退場がちょっとずれたようで、舞台で(?)となってしまいました。稽古後あらためて確認しましたから大丈夫だとは思いますが。

『鬼平犯科帳』は、素のお稽古でもたっぷり時間をかけてお稽古をしてまいりました。歌舞伎として上演するのは2回目、さらに今回は台本を膨らませており、装置も変わったとのことで、下座音楽、演技演出など、あらためて作り上げるという趣でした。
舞台稽古におきましても、各場ごとの居所あわせはもちろん、進行を止めての手直し、小返しも随所でございました。私の勤める長谷川家の女中は、酒宴のお膳を同役と二人で片付けるしごとがあるのですが、稽古場での当初の段取りが大幅に変更。褥(しとね)の居所を変えたり煙草盆をしまったりする用事も追加。これらの変更は、すべて平蔵役の播磨屋(吉右衛門)さんが、今日作られた舞台面を見て、ご自身の演技をご考慮された上で、我々の段取りを丁寧にご指示くださいました。おかげさまで、これまで滞りそうだった舞台での用事が、とてもスムーズになりまして、本当に有り難いことでした。

             ☆

いよいよ明日からはじまる御園座<陽春大歌舞伎>。単身ではございますが、いや単身なればこその、昼夜4役。体調に気をつけながら頑張ってまいりますので、なにとぞご来場たまわりますようお願い申し上げます。

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1 コメント

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初日 おめでとうございます (淳之)
2008-04-01 21:08:47
 そろそろ初日の舞台が滞りなくお開きとなった頃でしょうか。
 4月は大阪松竹もあるうえ御園座は正直言って演目が今ひとつパッとせず、吉右衛門ならではの歌舞伎の洒脱とコクに欠ける気がして、迷った挙句に来週の金曜夜のみ参ります。先の歌舞伎座では今一つだった「閻魔と政頼」が左團次を得て面白くなることを期待してます。ご活躍くださいませ。
 芸どころ名古屋でのご盛況と怪我の無い公演であることをお祈り申し上げます。
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