梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

指先が大事

2009年01月23日 | 芝居
『祝初春式三番叟』の中盤に、三番叟と2人の千歳による“手踊り”がございます。
「花が咲き候(そろ) 黄金の花が…」の歌詞は、『舌出し三番叟』からとっておりますが、翁が登場している間の儀式性、荘重さから変わり、ややくだけた、明るく楽しい雰囲気の曲調は、御覧になる方の気持ちをホッと和ませるものと思います。

さて、三番叟も千歳も、<大口(おおくち)>という袴をはき、上は<素襖(すおう)>という着付です。素襖の袖は、様式的にずいぶん大きく、幅広く作られておりまして、普通にしていると両の手先までスッポリと覆われてしまいます。
この扮装で“手踊り”を見せるためには、手先のあがきをよくしなければなりませず、素襖の袖をたくすことをいたします。
千歳は、錦の細帯(お能の鬘帯のような形態)を使ってたくします(ちょっと見たところでは襷をしたように見えるかもしれません)が、三番叟は、素襖の肩の部分と、袖の裄丈の中ほどのところにそれぞれ仕込まれている紐を結び、袖口を肩側に吊り上げる感じで、たくし上げております。

“手踊り”の直前、三味線の合方が演奏されている間、それぞれの後見がいろいろと働いておりますのは、この<袖をたくす>作業をしているのでした。
合方の寸法におさまるように仕上げなくてはならないので、手際が大事。
たくしてからも、重なり合う部分を綺麗にまとめないと、ゴワついてしまって見た目が悪くなってしまいますし…。
初日近辺はドキドキでした。今はようやく、落ち着いて。
三番叟ものの舞踊で、このように袖をたくすのは、珍しいことなんですが、大変勉強になっております。

烏帽子の紐のみならず、素襖の紐も。
やっぱり<結ぶ>ことの難しさを味わう三番叟の後見なのでした。


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