梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

馬2態

2008年03月22日 | 芝居
『一谷嫩軍記 陣門・組打』では、黒白2頭の馬が大活躍。
ご承知の通り歌舞伎の馬は、私ども名題下の役者が勤めるものですが、誰でもできるというものではなく、上に役者を乗せたうえで、駆ける・跳ねる・回るなどといった種々の動作を安全に勤めなくてはならず、体格や身長、足腰の丈夫さなど、色々な点を満たした方が担当する、とても特殊な仕事だと申せましょう。

ことにこの「陣門・組打」は重い鎧を着た役者を乗せ、長時間の演技を見せなくてはなりません。今月お勤めになっていらっしゃる計4人の馬役の先輩方が、お勤めを終えられ楽屋に引っ込んできたときの、汗びっしょりのお姿を拝見いたしましても、私などには想像もつかない大変なご苦労が偲ばれまして、頭が下がる思いです。

さて、そんな大変な<技術>を要する馬も出てくるかと思えば、なんとも幼稚で古風な仕組みの馬も出てくるのが歌舞伎の面白いところで、同じ「陣門・組打」の中盤、子役による<遠見の熊谷、敦盛>の海上の立廻り場面では、<ホニホロ>といわれる馬が使われます。
<ホニホロ>の馬には足は無く、胴体しか作られておりません。そして胴の中央部、ちょうど鞍が置かれる部分には穴が開いており、ここに拵えをした子役さんが体を入れて紐で固定する。子役さんは自分の足で歩くだけで馬に乗っているように見えるというわけです。海上の立廻りということで、浪を描いた<並べ(横に長い書き割り)>が前にあるので、馬の胴から下は隠れてみえません。そのため馬の足がなくても、また子役さんの足がニョッキリ出ていても大丈夫なのですね。
よく考えられているなァと思うのは、鐙にのせるべき本人の足もないわけなのですが、着ている鎧とか、背中につけた母衣(ほろ)などのおかげで、それほどおかしく見えないんですよね。



<ホニホロ>とは何とも不思議なネーミングですが、これはなんでも、江戸時代に町々を流していた商売人に、武者姿や唐人姿で、紙張り子でできたこの仕組みの馬を身につけ、「そりゃ上がるわ上がるわ ホニホロホニホロ」という囃子声と面白い動きで子供客を楽しませた<ホニホロ飴売り>というのがいたそうで、これを歌舞伎が取り入れたものなんだそうですよ。

しかし、なんでまた「ホニホロホニホロ」なんて言ってたんでしょ。
マァ現代でも「オッパッピー」の意味なんてわかりませんからね。なにかのノリで言ってたのかな。

最後に<ホニホロ>と人が入る方の馬の、表情の違いを…。

(左・ホニホロ/右・人が入る馬)

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