梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

ただ者ではない…

2007年11月20日 | 芝居
昼の部の『曾我綉侠御所染』、いわゆる<御所の五郎蔵>で、敵役として登場する星影土右衛門。今月は高島屋(左團次)さんがお勤めですが、五郎蔵の女房であり五条坂の廓の太夫でもある傾城皐月に横恋慕するワル者、というだけではないようで…。
終幕「逢州殺しの場」で、門弟を引き連れた土右衛門一行を五郎蔵が襲いますと、門弟たちはアタフタ逃げ出す有様ですが、土右衛門は悠々と廓の見世先、格子の中に<消えて>しまいます。このときの鳴り物は大太鼓による<ドロドロ>で、これは怨霊、化性など、人間ならざるものの演技に伴うものでございます。

劇中はっきりと示されることはないのですが、実は土右衛門は<隠形の術>を操る妖術使いという設定です。逢州の実父を殺した犯人であり、主家の浅間家を滅ぼそうとする大悪人でもあり、そういう常人ならざるキャラクターが、この場には名残として表現されております。
もともとこの『曾我綉~』は、河竹黙阿弥が、柳亭種彦の読本『浅間嶽面影草紙』を下敷きに書き上げた狂言ですが、その『浅間嶽~』において、すでに土右衛門は妖術使いというキャラクターになっているそうです。読本特有の、伝奇的、奇想天外な趣向が、芝居にも引き継がれているのですね。

現行の台本では、幕切れ、再びドロドロで登場した土右衛門と五郎蔵の立廻りで幕となることがもっぱらですが、黙阿弥の原作を拝見しますと、立廻りの途中で三たびドロドロにて花道スッポンに消え、それに驚く五郎蔵の姿を見せて幕。その後またまたドロドロで迫り上がり、ニッタリ笑いながら悠々と<幕外の引っ込み>をみせるという演出になっております。