梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

決着をつけない風土?

2007年11月14日 | 芝居
いよいよお芝居も大詰めとなり、主人公の颯爽とした立廻り。敵役が斬られてめでたく幕ーー
となるかと思いきや、おもむろに柝が「チョーン チョン」と入ったとたん、舞台の役者たち、演技をやめて舞台に正座。
「東西、まず今日はこれ切り」
の口上、一同平伏して幕が閉まる…。

このような、さっきまでのストーリーの決着はどうなるの? と、突っ込みを入れたくなるような演出を、時折見ることがございます。
これは<切り口上>と呼ばれる、口上の一種です。江戸時代は、興行中毎日、最終幕の幕切れに<頭取>さんが舞台に出て来てこの口上を述べたそうですが、現在では限られた演目、そして時と場合に応じてのみしかございません。
現在の公演において、あえて芝居としての決着を見せないのは、脚本通りにやると誰かが舞台上で死んでしまうことになるとか(絵面でキマる事ができなくなり役が悪くなる)、古風さを出す工夫、などの意味合いがございます。

「これ切り」というくらいですから、このあとにはお芝居は上演されません。その公演の最終幕でのみ行われる口上ですが、昼の部の切狂言では「まず昼の部は…」と言うこともございます。
また、古風な顔見世狂言の通し狂言ですと、一番目(時代物)のおわりに「東西 続く二番目(世話場のこと) 左様御覧下さりましょう」という口上もございます。

襲名や追善での口上とは違い、決まりきった文言しかいわない<切り口上>。これがいわゆる「堅苦しい言い回し、心のこもらない、突き放したような物言い」のことをさすようになり、一般でも使われるようになったわけですね。