梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

顔見世月稽古場便り・壱

2005年10月28日 | 芝居
今日から歌舞伎座十一月公演『吉例顔見世大歌舞伎』のお稽古です。
私は、昼の部二演目めの『熊谷陣屋』に<軍兵>役で、そして夜の部二演目めの『鞍馬山誉鷹』に<楓四天>役で出演することになりました。今日のお稽古は、まず午前十一時からの<楓四天>の立ち回り稽古から始まりました。
以前にも申しました通り、『鞍馬山~』は、天王寺屋(富十郎)さんの御子息、大さんが、初代中村鷹之資(たかのすけ)となられるお披露目の新作演目で、鷹之資さんが演じられる牛若丸と、私をはじめ総勢十八人の<楓四天>との華やかな立ち回りが見せ場となるものです。舞台が紅葉色増す秋の鞍馬山ですので、いわゆるカラミである私達の扮装も、普段なら桜模様の<花四天>なのでしょうが、今回は楓をデザインした衣裳となるそうで、役名も変わるというわけです(歌舞伎では他に黒四天、鱗四天、蜘蛛四天などがございますね)。
新作ですので、当然立ち回りの手順も一から作り上げてゆくわけですが、<立師>という立場の役者さんが考案するということも、以前お話いたしました。今日ははじめてそろった<楓四天>役の人々に、<立師>が手順を説明しながら、誰がどこをやるのか、分担、割り振りを決めてゆくという作業がメインとなりました。大勢が出る立ち回りですので、人数を使って色々な形を描いたり、派手な動きを見せたりと、鷹之資さんの晴れの舞台を盛り上げるような、面白い手順がつきましたが、私達出演者は、いくつかのパートに分かれているこの立ち回りの、全体の流れを把握すること、自分の手順(単に<手>ということがほとんどですが)、出るキッカケを間違えないように気をつけるのが大切となります。何度も申しますが大人数ですので、入れ替わり立ち代わり、出たり入ったりすることが多くなります。舞台上での混乱を避けるために、いわゆる<交通整理>にだいぶ時間がかかりました。
本番では五分から十分くらいとなる立ち回りのお稽古に、約一時間。これは全く新しい立ち回り、しかも大人数のものを作っているわけですから当然かかる時間です。もちろん、なんべんも繰り返してお稽古したことはいうまでもございません。

さて立ち回り稽古終了後はしばらくあき時間となりましたが、午後四時からは『鞍馬山~』の<附立>。師匠梅玉をはじめ、京屋(雀右衛門)さん、天王寺屋さん、播磨屋(吉右衛門)さん、松嶋屋(仁左衛門)さん、そして鷹之資さんが揃います。なにしろ新作ですので、各役の動き、段取りを決めながら、あるいはセリフのカット、変更をしながらのお稽古となりましたが、立ち回り部分につきましては、あらかじめお伝えしておりました手順を、鷹之資さんがしっかりと覚えていらしたので、とてもスムーズに運びました。それにしても、十八人を相手にお一人で奮戦するわけで、覚える手数も膨大なのですから大変だと思います。
お稽古終了後も、鷹之資さんとあらためて立ち回り部分を二度ほど合わせ、さらに手順を固めます。細かい部分もだんだんとまとまってまりました。

続いては『熊谷陣屋』の<附立>。このお芝居で私がさせていただきます<軍兵>は、師匠の演じます源義経が舞台上で座る<陣床几>を差し出し、義経の後ろにじっと座って控えるという仕事です。はじめて演じるお役なのですが、何分くらい座ってるんでしょうかね~。あぐらなのですが、だんだんと痺れがきてしまいまして困ります! 最後は立ち上がって引っ込まなくてはいけないので、不様な姿をさらさないよう十分注意いたします。
さらに続く『大経師昔暦』の<附立>は、師匠の演目で、私は出演いたしませんが、本番では<黒衣>を着て控えることになるので、よくお稽古を拝見し、舞台裏での用事、仕事の確認をいたしました。

今日のお稽古終了は七時過ぎでしたでしょうか。仲間と以前のホルモンダイニング『鳴尾』で食事してから帰りました。
…六月以来、久しぶりの歌舞伎座です。やっぱりこの劇場には独特の雰囲気がございますね。今月も、楽しく、真面目にお仕事ができればと思います。
そんなわけで、今日の写真はまだ荷物も入らない「名題下部屋」の一角です。