『貞操花鳥羽恋塚』の三幕目「讃州松山 崇徳院御在所の場」の幕切れでは音羽屋(松緑さん)による<筋違(すじかい)の宙乗り>が大きな見せ場となっております(チラシなどには、筋交、と表記しているものもあるようですが、ここでは今回の上演台本の表記に従いました)。
音羽屋さんの扮する崇徳院が、千日間の行法の末、生きながら魔道に墜ち、天狗と化して敵をなぎたおし、憎き平家への恨みを胸に空中を飛び去ってゆく、なんとも怪奇的な場面です。
実はこのお芝居が文化六(一八〇九)年に初演されたおりの台本(当時は台帳、と申しておりましたが)にも、
(前略)崇徳院、東馬(梅之注・この場に登場する敵役の名)を引っ抱えたまま、筋違の宙乗り有って、よい程に止まり、
崇徳院 見よ見よ、平家へ、目に物見せん ムゝ、ハゝゝゝゝ。
トよろしく見得にて 幕
というように書かれており、当時からこの<筋違の宙乗り>が行われていたらしく、それを今回、復活しているというわけでございます。
では、普通の宙乗りとどのように違うのかと申しますと、これまでいろいろなお芝居で行われてきた宙乗りが、花道の真上を飛んで、三階下手の客席に引っ込むようにコース設定されていたものを、花道の付け際から、客席を<斜めに>突っ切るようにし、最終的には三階上手の客席に引っ込むようになっているのです。
今回、はじめてこの<筋違の宙乗り>を拝見して、コース変更の効果がものすごいものであることを実感しました。なんといっても下手から上手までを行くわけですから、どの席のお客さまからも、空中を行く役者の姿が近くに見えるということ、目の前に来たときの迫力は相当のものだと思います。
それから、斜めとはいえ、背後の舞台を横断する形になりますので、舞台を覆うように吊された、一面雲を描いた<雲幕>を通過する姿が、本当に空中を飛んでいるように見えること。新鮮な発見でした。
よく「<宙乗り>があるお芝居では、三階席が特別席になる」といわれますが、特に今回の<筋違えの宙乗り>では、さらに見ごたえがあるのではないでしょうか。
とはいえ、<宙乗り>も一種の<仕掛け>でございまして、大変危険の伴う演出でございます。予め衣裳の下に装着した<連尺(れんじゃく)>という、パラシュートのベルトのようなものに付いている金具と、客席天井に設置されたワイヤーを、<後見>が取り付け、このワイヤーを、宙乗りのゴール地点に仮設した<鳥屋(とや。本来は花道揚げ幕の内側にある小部屋のこと)>の中で引いてゆくことで空中に上がってゆくわけです。このワイヤーの操作で、高低の変化もつけられますしバックもできます。役者、後見、宙乗り操作のスタッフさん、みなさんのチームワークではじめて成り立つものなんですね。舞台稽古の前日には、安全祈願祭を執り行い、そのうえで、かわりの役者さんをつかっての念入りなリハーサル、打ち合わせを重ねてから、舞台稽古に臨んでいらっしゃいました。
<宙乗り>には、このように客席上空を行くもののほかにも、『後日の岩藤』や『阿国御前化粧鏡』などでみられるような、舞台の上空を真一文字に行くものもありますし、『鷺娘』や『葛の葉の道行』の幕切れで、舞台中央からまっすぐ上に昇ってゆく演出をなさる役者さんもいらっしゃいます。また、花道上空をゆく宙乗りでも、ただの葛籠が浮んだと思ったら、葛籠がぱっくり割れて中から役者が出てきて大見得を切る、なんていう<葛籠ぬけの宙乗り>というものございます。昨日お話しました<仕掛け>と同様、<宙乗り>も、最新の技術によってどんどん工夫がなされておりまして、今ではいろいろな演目で、様々な趣向の<宙乗り>が見られるようになりました。
今回の<筋違の宙乗り>では、下座囃子に、『勧進帳』の幕切れの六方でも使われる「飛び去り」の鳴り物に、大銅鑼や、チャッパと呼ばれるシンバル状の楽器もあしらいまして、よりおどろおどろしい雰囲気を出しております。また、宙乗りが始まる時、お客さまの意表をつく<ある演出>が用意されておりますので、お楽しみに!
音羽屋さんの扮する崇徳院が、千日間の行法の末、生きながら魔道に墜ち、天狗と化して敵をなぎたおし、憎き平家への恨みを胸に空中を飛び去ってゆく、なんとも怪奇的な場面です。
実はこのお芝居が文化六(一八〇九)年に初演されたおりの台本(当時は台帳、と申しておりましたが)にも、
(前略)崇徳院、東馬(梅之注・この場に登場する敵役の名)を引っ抱えたまま、筋違の宙乗り有って、よい程に止まり、
崇徳院 見よ見よ、平家へ、目に物見せん ムゝ、ハゝゝゝゝ。
トよろしく見得にて 幕
というように書かれており、当時からこの<筋違の宙乗り>が行われていたらしく、それを今回、復活しているというわけでございます。
では、普通の宙乗りとどのように違うのかと申しますと、これまでいろいろなお芝居で行われてきた宙乗りが、花道の真上を飛んで、三階下手の客席に引っ込むようにコース設定されていたものを、花道の付け際から、客席を<斜めに>突っ切るようにし、最終的には三階上手の客席に引っ込むようになっているのです。
今回、はじめてこの<筋違の宙乗り>を拝見して、コース変更の効果がものすごいものであることを実感しました。なんといっても下手から上手までを行くわけですから、どの席のお客さまからも、空中を行く役者の姿が近くに見えるということ、目の前に来たときの迫力は相当のものだと思います。
それから、斜めとはいえ、背後の舞台を横断する形になりますので、舞台を覆うように吊された、一面雲を描いた<雲幕>を通過する姿が、本当に空中を飛んでいるように見えること。新鮮な発見でした。
よく「<宙乗り>があるお芝居では、三階席が特別席になる」といわれますが、特に今回の<筋違えの宙乗り>では、さらに見ごたえがあるのではないでしょうか。
とはいえ、<宙乗り>も一種の<仕掛け>でございまして、大変危険の伴う演出でございます。予め衣裳の下に装着した<連尺(れんじゃく)>という、パラシュートのベルトのようなものに付いている金具と、客席天井に設置されたワイヤーを、<後見>が取り付け、このワイヤーを、宙乗りのゴール地点に仮設した<鳥屋(とや。本来は花道揚げ幕の内側にある小部屋のこと)>の中で引いてゆくことで空中に上がってゆくわけです。このワイヤーの操作で、高低の変化もつけられますしバックもできます。役者、後見、宙乗り操作のスタッフさん、みなさんのチームワークではじめて成り立つものなんですね。舞台稽古の前日には、安全祈願祭を執り行い、そのうえで、かわりの役者さんをつかっての念入りなリハーサル、打ち合わせを重ねてから、舞台稽古に臨んでいらっしゃいました。
<宙乗り>には、このように客席上空を行くもののほかにも、『後日の岩藤』や『阿国御前化粧鏡』などでみられるような、舞台の上空を真一文字に行くものもありますし、『鷺娘』や『葛の葉の道行』の幕切れで、舞台中央からまっすぐ上に昇ってゆく演出をなさる役者さんもいらっしゃいます。また、花道上空をゆく宙乗りでも、ただの葛籠が浮んだと思ったら、葛籠がぱっくり割れて中から役者が出てきて大見得を切る、なんていう<葛籠ぬけの宙乗り>というものございます。昨日お話しました<仕掛け>と同様、<宙乗り>も、最新の技術によってどんどん工夫がなされておりまして、今ではいろいろな演目で、様々な趣向の<宙乗り>が見られるようになりました。
今回の<筋違の宙乗り>では、下座囃子に、『勧進帳』の幕切れの六方でも使われる「飛び去り」の鳴り物に、大銅鑼や、チャッパと呼ばれるシンバル状の楽器もあしらいまして、よりおどろおどろしい雰囲気を出しております。また、宙乗りが始まる時、お客さまの意表をつく<ある演出>が用意されておりますので、お楽しみに!