<奈良公園>
「動物の血」を神事に用いる
という話を聞いてまず思い出したのは、
蘇民将来の伝説とも関連する
ユダヤの「過ぎ越し祭」という行事です。
過ぎ越し祭とは、「神がエジプト中の
初子を殺した際、仔羊の血を門口に塗った
ユダヤ人の家だけは過ぎ越した」という、
モーゼ時代の故事を起源とするユダヤ教の宗教記念日で、
これらの記述が元となりキリスト教徒の間では、
仔羊の血が神聖なものとして扱われるようになりました。
また、この「過ぎ越し」のとき以外にも、
古代エルサレムの神殿では、毎朝夕に仔羊が
生け贄として神に捧げられていたそうですから、
ユダヤ人にとって「仔羊の血」が
穢れなき供物の筆頭であることは確かなのでしょう。
ちなみに、「羊」という動物は高温湿気を嫌うため、
湿潤な日本では飼育しづらく、
「羊」が家畜として飼われるようになったのは、
ごく最近の明治時代に入ってからだと聞きます。
いくつかの文献にも、「古代日本に羊はいなかった」
と書かれていますし、仮に海外から羊が連れて
来られたとしても、当時の環境では育てたり
繁殖させたりすることは難しかったはずです。
もしかすると、「羊」の飼育を断念した
渡来系ユダヤの人々は、「鹿の血」の中に
日本の地霊が宿ることを感じ取り、
「聖なる獣」の代替としたかもしれません。