天路歴程

日々、思うこと、感じたことを詩に表現していきたいと思っています。
なにか感じていただけるとうれしいです。

ピンキーリング

2012-05-28 06:26:41 | 小説
とはいえ、話すのにはありったけの勇気をかき集めなければならなかった。翔太はしどろもどろになりながら話し始めた。
「あの、俺今さっき、おまえのこと突き飛ばしたやんか。それってな、あの…。」
彼女は無反応だった。翔太は言葉に詰まる。苦しい。でも言わなければ、伝えなければならない。恥ずかしさ、焦り、もどかしさ、いろんな感情が入り混じる。彼の脇の下に汗がたまる。顔が火照る。翔太は自分の顔が赤くなっているのがわかる。そんな自分の無様な姿が腹立たしかった。それでも翔太は話し続けるのをやめる気はなかった。
「俺、デパートのショーウィンドのところで女の服をじっと見てたやろ。」
彼女は驚いたようにミミズの入ったビニール袋から顔を上げた。
「え、そうやったん。」
翔太はもっとびっくりする。
「気付いてなかったん。」
「うん、まったく。おんなじクラスの田中がいるなあと思っただけ。ていうかさ、それと田中があたしを突き飛ばした訳とどういうふうにつながるん。」
翔太はさっと血の気が引く。やられた。というよりもやってしまった。勝手な思い込みで、先走ってしまったようだ。でも、ここまできたら後には引けない。その場から逃げ出したかったが、翔太は観念する。もうどうにでもなれ。やけくそ気味にそう思ったら、今まで体中を駆け巡っていたアドレナリンが静まってきた。ようやく気持ちが落ち着く。彼は話しを再開する。
「女の服をじっと見てたら、女の服が好きというのがばれると思ったんや。それ以上に嫌やったんが、俺の女の服好きを、おまえが学校中に言いふらすことやったんや。そんなことされたら俺、学校に行かれへんようになるやん。それを阻止するために…」
翔太はちょっとためらう。もっとひどいことをしようとしていたのだが、実際やった行為だけを口に出す。
「おまえを突き飛ばしたんや。」

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