天路歴程

日々、思うこと、感じたことを詩に表現していきたいと思っています。
なにか感じていただけるとうれしいです。

地上三センチの浮遊

2013-09-08 21:15:49 | エッセイ
「ロック‼ ロック‼ ロック‼」

マニアでも詳しくもありませんので、そんなに語れるほどでもないのですが、無性にロックが聞きたくなる時があります。

爆音でロックを聞くのが、気持ちいいのでしょうが、大人である私は、ヘッドホンでこっそりと聞いています。 そんなたたずまい、ロックじゃない‼とご批判を受けそうですが、こっそりロック、なかなかよいのではなかろうかと、自画自賛しております。しれっとした顔で、歪むギターを聞くのも楽しいものです。

私は踊れるロックが好みです。心と体が開放できて、ひたすら音に身をゆだねることができるからです。それから、いろんな要素が混じっているものが好きです。

後、「ライブが見たい‼」と思わせるものを聞くことが多いです。他のジャンルは音源を聞くことで満足するのですが、ロックは爆音で聞きたい!踊りたい!という欲求が強くなります。多分、自分の中でロックは肉体に直結した音楽なのでしょう。体感したくなるのです。いろんなジャンルのライブに行きますが、ロックが一番多いかもしれません。興奮しすぎて、痣と筋肉痛を持って帰る時が多々あります。そんな魅力がロックにはあるのです。

ロックに惹かれるのは、なにもかもむき出しにする音楽だからかもしれません。常識、価値観、正義、そんな仮面をかぶったものたちに、「本当にそうなの?」とパンチをくらわし、聞いている人間に、「そんなに簡単に信じていいの?」「自分の頭で考えな。」とつきはなす音楽だと思います。だからこそ、ロック=若者なのでしょう。

私自身、もういい大人で、世の毒にどっぷりと浸かっています。そして、抗うことや、戦うことは苦手です。尖ってもいないし、穏やかなことを望みます。でも、すべてのことに対して、「本当にこれでいいのか?」と疑問を持つことは大事なことだと思っています。

私にとって「かっこいい」のは、穏やかさや柔らかさの中に反骨精神があることです。

微笑みに隠れた強固な意思。マカロンの中のトウガラシ。羽毛に包まれたクルミ。そういうものが、私にとっては、「ロック魂」なのです。



無風地帯

2013-09-08 19:39:57 | 小説
どうしてそんなに自分をおとしめるのか、私には理解不能だった。そして、長年母を虐げてきた父の非道ぶりにあらためて怒りがわき、それに抗うことのない母に不甲斐なさを感じた。母の声が乱れてきた。
「私が我慢してたら、お父さん、私のところに戻ってきてくれるかしら。私はどうしようもない女だから、生きていたって仕方がないのよ。」
なんだかおかしい。支離滅裂だし、言っていることが無茶苦茶だ。私は母に聞いた。
「もしかして、酔ってる。」
母は私の問いを無視した。くすくす笑い始めた。完全に酔っ払っていた。そして、歌うような声で衝撃的なことを言った。
「いまさっきねえ、死んだほうがましだと思って、かみそりで手首を切ってみたの。でもねえ、私、途中で怖くなってやめちゃった。死ぬこともできないなんてねえ、ほんと、なにやってもだめねえ。」
私は声を失った。母は崖っぷちだ。しかも誰も母を支えてはいない。このままでは母は肉体が先か、精神が先かわからないが、壊れてしまうだろう。猶予はならなかった。私は家に戻らなければならない。あの、大キライな牢獄に。それが私にできる唯一の選択だった。





私はほどなくして実家に戻った。定時に帰ることができ、通勤時間が短いところに再就職した。給料ややりがいは二の次だった。しかし私の帰還は焼け石に水だった。母の自傷行為はあれ以来なかったが、(私が常に目を配っていた)酒量は増えていった。私が隠しても捨ててもいつのまにか酒瓶が転がっており、取り上げたら、私に殴りかかってきた。弟が止めればおとなしくなるのだが、隠れて酒を飲んだ。飲酒に関しては、母は驚くほど狡猾で、毎日果てしのない攻防戦だった。父は母には無関心だった。私は母の状態を父に伝える気はなかった。あの男から反省や手助けなんてさらさら期待できなかったからだ。母は父がいる時は、正常を取り繕うことができた。だからあの当時、父は母が酒に溺れてることすら知らなかったのではないだろうか。相変わらず浮気は続いていたが、私にとってはどうでもよかった。どうぞご自由にという感じだった。それどころではなかったのだ。弟は弟で、見て見ぬ振りをした。と言ったら、少し酷かもしれない。母は弟の前ではそれほど乱れなかったから、弟はあまり深刻にとらえなかったのだろう。でも、なるべく母と関わるのを避けているように思われた。そんな不健全な均衡状態が、弟が家を出るまで続いたのだった。

無風地帯

2013-09-05 21:19:17 | 小説
「最近、お父さんを驚かそうと思って、連絡せずにマンションに行ったのよ。そしたら思ったより片付いてて、お父さんて案外まめだなと感心したの。いろいろ見回って洗面所に行ったら、」
母は息をのんだ。
「二本歯ブラシがあったのよ。」
あいたたと私は思った。浮気のありきたりな発覚のしかた。相手はわざとそこにおいたのだろう。父は母が予告もせず、やってくるなんて思ってもみなかったのだろう。その後のことも容易に想像がついたが、黙っていた。母は話し続ける。
「お母さん、お父さんが帰ってくるまで呆然とそこに座っていたの。夜、お父さんが帰ってきた時、ものすごく怒られたわ。連絡もせず、勝手にくるなって。こちらにも都合があるからって。私の無神経さや思いやりのなさが表れてるって。」
それは逆切れですから、と私は思った。逃れようのない証拠があるのだから、そうとしか反応できないだろう。対等な立場だったらそこを追及するだろうが、かなしいかな母は父にとって「都合のいい女」だった。母はまた泣き声になった。
「今日は泊めてやるが、明日の朝一番に帰れとお父さんに言われてしまったの。当分顔もみたくない、声も聞きたくない、必要があればこちらから連絡するって。で、今のところ音沙汰がないのよ。お父さん、私と別れるつもりなのかしら。」
それはないだろう。父は体面にこだわるし、第一、こんな使い勝手のいい「持ち物」を簡単に手放すわけないのだ。それよりも父と距離をおくことによって、母の父への依存から脱出できればいいと思った。そんな私の思惑とはかけはなれたことを母は言った。
「私、お父さんがいなければなにもできないの。お母さんみたいな愚かな女、お父さんに捨てられたら生きていけない。」

無風地帯

2013-09-01 21:05:57 | 小説
その後、七、八年は私には何の問題もない年月だった。大学は親元を離れて暮らし、そのままそこで就職し、自分なりの生活を送っていた。しかし、それを破ったのは一本の電話だった。


平日の午後十一時頃。家に帰りようやく一息ついたその時、電話がなった。母からだ。うちの家族はほとんど交流がない。用事のある時ぐらいしかやりとりがなかった。外見はちゃんとした家庭ではあったが、心を許す関係ではなかったからだ。こんな時間になんだろうといぶかしく思った。
「もしもし。…どうしたの。」
いきなり耳に流れこむすすり泣き。私は面食らう。母は泣いていた。私は母が話せるようになるまで黙っていた。母が話しはじめた。
「お父さんが、浮気しているみたいなの。」
母には衝撃だったろうし、大打撃を受けたと思う。父がすべてで、父に自分をささげてきたから。でも、私にとってはどうでもよかった。あの自分がすべての男だったら、自分の魅力を異性に示すのもやぶさかではないだろう。自分の持ち物である妻に心があるなんて考えやしないし、妻は自分の世界をうまくまわしてくれさえすればいいと思っている。妻を心身ともに縛るのは、自分の思い通りに動かしたいだけだ。愛情のひとかけらもありやしないのだ。私の冷淡な態度に母は激昂する。
「なんて冷たい子なの。あなたは昔からそうだった。いつも何に対しても無感動、無関心。本当に信じられない。お母さんがこんなに傷ついているのに、なんにも反応をしめさない。優しさが足りないのよ。あなたは人間として大事なものが欠けているわ。」
私は母の攻撃が治まるのを待った。混乱し、怒りや悲しみをぶつけられる人間がいないのだろう。私は母の孤独の深さをかんじていた。と同時に、母の言葉に傷ついてもいた。私は黙って母のサンドバッグになっていた。母はまた沈んだ声になった。
「私のなにが悪かったのかしら。お父さんが転勤の辞令を受けた時、ついて行くべきだったのよ。私の怠慢にお父さんが愛想をつかしたのね。」
「それは違うと思うよ。章雄の学校のこともあるし、お父さんが自ら単身赴任でいいと言ったんだから、お母さんが自分を責めることはなにひとつないよ。」
そうなのだ。父は家族に対しては暴君なのだ。自分についてきて欲しいなら、弟のことなんて関係なくついてこさせただろう。自由になりたかったのだ。弟のことにかこつけて、自分の都合を正当化しただけだ。私には父の考えが手にとるようにわかった。もちろん、そんなこと母に言うつもりはなかったが。母が言葉を続けた。