天路歴程

日々、思うこと、感じたことを詩に表現していきたいと思っています。
なにか感じていただけるとうれしいです。

夜の果てにあるものは闇

2018-06-03 19:01:12 | ショート ショート
血の味がする。沙耶は、倒れたままそう思う。顔を横に向ければ、割れたグラス。ひっくり返ったテーブル。裂けたカーテン。ありふれた日常になってしまった光景。

割れものは買いたくないが、買って補充しておかなければ。あの人が、機嫌が悪くなるからだ。

「こんな安っぽい器で、メシが食えるか。俺への当てつけか⁈」

あの人の声のトーン、表情まで想像ができる。

明日までに、何事もなかったかのように、片付けておかなければ。あの人は、今日は帰らない。自分が後始末をすることはないから。

あの人の賢いところは、激昂してるようで、冷静なところ。

壁に穴を開けたり、窓ガラスを叩き割ったりはしない。

1日で修復できないことはしない。

沙耶にだって、見えるところにダメージは与えない。顔や四肢には、アザ一つないのだ。彼女の乳房に、歯型があったとしても。彼女の背中に火傷があったとしても。

誰が気付くだろうか?

地べたに倒れ伏した沙耶を、誰が見つけるだろう?

沙耶は、ノロノロと起き上がる。永遠に横たわっていたいけれど、あの人に見つかれば、閉ざされた地獄に突き落とされるだけだ。

息をした沙耶は、胸をおさえる。あばらに激痛が走る。今度は、あばらかと沙耶は思う。

次は、何を奪われるのだろう。何をすれば、許されるのだろう。

沙耶は、わからないままグラスの破片をつかむ。

素手でグラスを片付ける沙耶。掌は血まみれだ。それを感じることもない毎日。

血は日常。破壊は日常。

沙耶は、日々、乾いていく。

それでも、あの人は、沙耶が人間であることを、毎夜、思い出させる。

痛みがあり、苦しみがある人間であることを。

新たな手法で、新たな拷問で。

繰り返し繰り返し。

空はどこかで落ちる

2018-06-01 18:44:02 | 
空はどこかで落ちる

この世界で絶対はない

未来永劫に続くと信じる

淡く光る空だって消えるのだ

紫陽花は色を失い

ナメクジは溶け

アメフラシは煙幕を出し続け

エノコログサは立ち枯れる

空はどこかで落ちる

涙をこぼしても

祈りを捧げても

銃を乱射しても

ナイフを振り回しても

空はどこかで落ちる

そういうことだ