天路歴程

日々、思うこと、感じたことを詩に表現していきたいと思っています。
なにか感じていただけるとうれしいです。

アイスティー

2018-08-26 08:55:03 | ショート ショート
晩夏の朝。

さやかは、ベッドに丸まっていた。気だるい体を横たえたままだ。カーテンの隙間から、朝の光が差し込む。昨夜、猛威をふるった台風は過ぎ去ったらしい。

今年の夏は、厳しい夏だとさやかは思った。酷暑と豪雨が交差する夏。あちらこちらに傷跡が残り
、それが癒えないままに、次の災厄がくる。

そんな感じだった。

こんな時に、自然の大きさを感じる。人間はまったく太刀打ちできない。過ぎ去るのを祈るしかないのだ。さやかは、地球に住まわせてもらってるんだなと思う。殊勝な気持ちになった。

日々に追われて生活してる時には、気付かないこと。考えもしないこと。

この気持ち、忘れてはいけないけれど、すぐ忘れてしまうのだろう。さやかは、少し皮肉げに思う。崇高で敬虔な思いも、日常の中で擦り切れてしまうものだ。

さやかはが、寝返りをうった。その拍子に、体にかけていた上掛けがずれて、昨日の名残があらわになる。

さやかの鼓動がはやくなる。隣は空っぽで、今この部屋には誰もいないのに。彼の香りが、自分の中に満ちてくる。目をつぶり、彼の感触を思い出す。それは、脳の奥底にある本能を引っ張りだす。

さやかは、風の唸りと嵐の轟きと甘い吐息を感じた。恐怖と快楽の奇妙なうねり。さやかの肌の隅々まで、朱く染まる。

そんな動物からの記憶を振り払うかのように、さやかは勢いよく起き上がる。

頭を振って、カーテンを開ける。まばゆい光が、部屋に満ちる。

さやかは、部屋着を身につけ、伸びをする。

今日は、丁寧に葉っぱからアイスティーを作ろう。ダージリンを使おう。時間はかかるけれど、心を込めて。

動物から、人間に戻るために。