天路歴程

日々、思うこと、感じたことを詩に表現していきたいと思っています。
なにか感じていただけるとうれしいです。

掌上小説集

2020-05-25 21:38:00 | ショート ショート
「布団のお昼寝」
ぽかぽか日差し。ベランダに干されて、ひと休み。今日は、休日。世界は、おっとりうらうらまわってる。街路の若葉が光る。燕が滑るように飛んでいく。草の香りがする。生き物たちの生命の輝きが、増す季節だ。
 気持ちがいい。だんだん眠くなる。とろとろと眠りに落ちる瞬間。それを、至福という。




「カシオペヤの罰」
 私は北の夜空で、星座となった。椅子に縛りつけられ、北極星のまわりをグルグルとまわり続ける。逆さにぶら下がることもある。未来永劫。神を冒涜した罰だ。
 私の娘は、美しかった。神の息吹がかかるものより、美しいと自慢した。それの、何が悪いの?傲慢?不遜?愚か?事実を述べただけなのに!
 その結果、多くのものを失った。あんなに愛した娘すらも。娘の私を見る目!あの蔑んだ目を忘れることはない。
 北の夜空で晒し者になりながらも、まだ、私は罪を犯したとは思っていない。







「ツツジの誇り」
 自分は、ツツジ。街路に植えられたツツジだ。自分達は、車の排気ガスにも耐えるタフさを持ち、空気を浄化する作用もある。無粋な街路を彩るために、自分達は、ここにいる。
 5月、自分達が、鮮やかな花を咲かす季節だ。甘い蜜を蓄え、蝶や蜂が蜜を求めてやってくる。人間達が、自分達を見て、眉間のしわを緩める。 
 自分達は、ただそこにあるだけなのだが、多くの虫達を守り、人間に微笑みをもたらす。自分は、それを誇りに思っている。

夜の砂を噛む

2020-05-14 12:12:00 | ショート ショート
 心が欲しいと思うのは、大きすぎる望みなのだろうか。
 夜は、更けた。私は、仰向けのまま、闇をぼんやりと見る。
 彼は、背中を向けて、軽くイビキをかいて眠っている。
 私を求め、私を揺らし、私を濡らし、満足した彼は、私を放り出して、眠りについた。
 
 私は、独りだ。
 
 独りではないことを証明しようとして、ここにいるつもりだったのに。独りを食めば、空っぽになる。
 空っぽな心は、貪欲で、もらってももらっても、もっともっとと欲しがる。
 
 私は、寂しかったのでしょう?
 一人が嫌だったのでしょう?
 抱き合いたかったのでしょう?
 それは、クリアしたのではないの?


 もう一人の私は、私に問いかける。
 
 こんなの、物理的に一人でいるより、独りだ。
 
 もう一人の私に、私は叫ぶ。
 
 一人なら、諦めがつく。独りは、心が冷たく壊死しそうになる。私は、寂しくて寂しくてたまらない。
 彼は、ただ、器が欲しかっただけ。欲望を満たす器。私でなくてもいい。こんな、代替可能な部品みたいな扱い…。
 
 いや、いっそ物みたいに、扱われたら、まだましだったかもしれない。自分が、物だと、心がないと思い込めたかもしれないから。

  でも、彼は、私を人間として扱った。私が人間で、心があると思い知らすかのように、傷つけた。もちろん、彼には、そんな意図はなかっただろうけど。
 
 目の前の欲望に、忠実だっただけ。
 欲望の果実を、貪欲にもぎ取ろうとしただけ。
 だからこそ、私を人間として、奈落の底に突き落としたのだ。

  林檎を貪るまでは、優しく撫でて。林檎を芯まで喰らい尽くしたなら、それまで。私は、もういないも同然なのだろう。
 
 もう一人の私は、ため息をつく。
 
 それでも、いいと思ったのではないの?体だけだとわかっていたのではないの?本当は、期待してたんでしょ?
 体を許したら、心まで愛してくれると。
 甘い恋愛小説みたいな、戯言を信じたんでしょう?
 
 残念でした。
 
 もう一人の私は、残酷に笑う。
 
 もう、心身共に、ボロボロになってしまえばいいのよ。
 
 私は、その通りね、ともう一人の私にうなずく。
 
 壊れても、もういい。
 ブレーキのきかないバイクで、アクセルを踏んで、そのまま崖から落ちてしまいたい。
 
 私は、眠れない。
 
 このまま、喉に詰まるような、夜の砂を噛み続けるのだろう。

光の鳥たち

2020-05-12 08:59:00 | 
羽が折れた鳥
うずくまる鳥
血を流す鳥

たくさんの鳥たちが
傷ついている

この長い闇は
いつまで
続くのか

わからないことが

フラストレーションになる

蠢く

怒り
疲れ
哀しみ

それでも

鳥たちは

飛ぼうとする

怖いという気持ち
飛び立つ時の負荷
羽ばたくと走る痛み

それでも

鳥たちは

飛ぼうとする

飛ぶことができても
飛ぶことができなくても

(飛ぶことができたことを
成功と語るな

 飛ぶことができなかったことを
失敗と語るな)

光の鳥たち

内から光を放つ

光の鳥たち

 




正義なんぞ世界にはない

2020-05-10 20:08:00 | 
正義なんぞ世界にはない

あるのは

力の強いものの屁理屈と豪腕だけだ

覚えておけ

この世界に正義なんぞない

踊らされるな

ただ

弱き人々に
冷たい目を向けるな

強いもの達に
惑わされな

不都合な事に
目をつぶるな

それは

今に限ったことではない

脈々と受け継いだ
負の遺産だ

歴史は教えてくれる

権力者は
ただ

権力のために
権力を使うのだと

手足は
切り捨てられ
踏みにじられ

都合よく
使われてきた

為政者の演説に
為政者の弁舌に

酔わされてはならない

とはいえ

諦めてはならない

今以上に

ひどくならないために

未来を

蹂躙されないために




ただ静かに

2020-05-07 14:22:00 | 
本当は
この世界に
「敵」というものはないのだろう

ただ
「自分」
「自らが属する種」
に何をもたらすかなのだろう

パズルのピースが
うまくはまらない

イライラする

そんな時

ピースを離し

静かに

目を閉じる

「敵襲来襲」
ラッパばかりが鳴り響く

何が「敵」?

わからないまま

不安と恐怖で
疑心暗鬼

ラッパを吹き鳴らす者達よ

あなたたちが

押し並べて

賢いわけでも
正しいわけでも

ないのだ

ラッパを持ってるから
優れているわけではないのだ

静かに
ラッパを置いて

静かに
観察する

そして

不都合なことも
隠さず

見たことを伝える

シンプルなことができなくて

どうやって

複雑なことができるというのか