天路歴程

日々、思うこと、感じたことを詩に表現していきたいと思っています。
なにか感じていただけるとうれしいです。

僕は勇者じゃない

2018-01-29 19:57:18 | 
ようやく

長い冬の夜が明ける

薄闇の中

カラスたちが飛び立つ

白い息

立ちのぼる冷気

僕は

扉を開ける

力強くなんかじゃない

恐る恐るだ

本当は

目をつぶっていたい

暖かい暖炉のある部屋で

ぬくぬくと眠っていたい

けれど

知ってしまった

冷たく厳しい冬を

終わらぬ凍える冬を

エクスカリバーを抜くのは

僕じゃなくてもいい

けれど

誰かが

はじめなければ

誰が

後に続くだろう?

僕は臆病者だ

無様に怯えながら

この薄闇の中を行くだろう

無様に転びながら

この凍りついた道を行くだろう

だから

僕は勇者じゃない

それでも

僕は行かなければならない









桜色のまほろば

2018-01-27 20:04:24 | 
どこにあるのか
誰も知らない

それでも

そこは

生きとし生けるものに

開かれている

誰もが

たどり着くことが

できる…はず

光の敷き詰められた

道を歩けば

緑色の風が吹く

七色の小人が

白樺のウロで笑っている

賢者のふくろうが

無花果の枝で話をしている

漂うのは桜色の霞

ここは

まほろば

どこかにあって

どこにもない

ふわふわ

2018-01-27 19:56:04 | 
曇天模様

雪が降る

空気を含む

羽のような雪

天使が吹いた

ガラスの結晶

ふわふわ
ふわふわ

地面に吸い込まれて

黒いしみを作る

それが積み重ねれば

白い真綿になるのでしょう

降り始めた雪

ふわふわ
ふわふわ

重く厚い雲に覆われた空

世界は

グレーと白に満たされる

雪が積もるよ
雪が積もるよ

ふわふわ
ふわふわ

JUMP!!!

2018-01-25 18:51:21 | 
跳ねる為に
人は生まれてきたよ

翼はなくても
跳ぶための
足がある

吹きすさぶ風の中
跳ねる子供たち

未来の光が溢れる

窓を叩く冷たい雨

冬の憂鬱な灰色

お気に入りの音楽を

イヤフォンで聴くよ

ギターが轟いて

頭を振って

ベースがうねって

腰を揺らして

ドラムが響いて

足で跳ねて

頬は染まって

笑いがこみ上げる

しかめ面は

どこかに消えて

冷えた体は

どこかに消えて

人は動物

跳ねるために

生まれてきたの


The weak king

2018-01-23 19:34:07 | ショート ショート
真夜中。政務を終えた王は、自室に佇む。全ての人間を遠ざけ、たった一人だ。王は、石造りのバルコニーから下を見る。
小高い丘に立ち、堅固な堀に囲まれた城。華美なものを好まない王であるので、地味な城であり、地味な庭である。けれど、緑を好む王であるので、木々は鬱蒼と茂っていた。松明の火がちらちら揺れる。兵士達が、見回りをしているのだろう。
高い丘に立つので、城下を見ることができる。今は闇に沈んでいるが、美しい街だ。運河と道を整備し、物と人が行き交う街とした。そして、緑をあちらこちらに植え、荒廃したところは改修した。王は、民が潤うことと、老若男女すべてがその恩恵を受けなければならないことを知っていた。
それを体現するための街を作り上げた王は、ほっとしていた。けれど、課題は次から次へとわいてくる。綱渡りの毎日だ。王は、眉間を揉み、首を回した。

その時、自室の本棚の一部が音もなく開いた。王は、振り向く。

「アーサー。」

王は、微笑む。

「マーヤ。」

王の名前を呼ぶ唯一の人間。王が会いたいと思う唯一の人間。彼を王ではなく、一人の人間として扱う唯一の人間。

幼馴染であり、恋人であり、自由の人である。マーヤは、短く切りそろえた黒髪と、輝く黒曜石のような瞳を持っていた。マーヤは、王に駆け寄る。

「会いたかった。」

王は、マーヤの手を握る。

「俺もだ。」

王がアーサーに戻る瞬間。一人の人間に戻る瞬間。マーヤは、アーサーの銀色の瞳をのぞき込む。

「疲れているみたいだね。」

「疲れてるよ。」

「弱みを見せないでいるのは、大変。」

「本当は、弱いんだけどな。歴代の王で、最弱なんじゃないか。」

マーヤは、アーサーをぎゅっと抱きしめる。

「それなら、最高の王は、最弱の王てことよ。」

マーヤは、アーサーの頬をはさむ。

「弱さを認めて、恥じていないあなたは、素晴らしい王。」

アーサーは、マーヤを見つめる。

「王じゃない俺は?」

「あたしにとっては、王である以上に素敵。」

マーヤは、いたずらぽく笑う。

「当たり前でしょ。」

アーサーは、晴れやかに笑い、マーヤの頭に顔を埋める。くぐもった声で言う。

「マーヤ、君は、どれだけかけがえのない人なのだろう。どうしたら、この気持ちを伝えられるのか、わからないよ。」

アーサーは、マーヤを優しく抱く。マーヤは、彼の心臓の音を聞いた。


長いような短い夜を、二人は過ごす。