天路歴程

日々、思うこと、感じたことを詩に表現していきたいと思っています。
なにか感じていただけるとうれしいです。

fly high

2017-04-24 19:29:03 | ショート ショート

白い白い病室。大きくきられた窓。私は窓際のベッドから、光のふりそそぐ外を見る。春の気配が漂う空。外に駆け出したくなるような陽気だ。

少し前の私なら、ありがたみを感じることもなく、外に出て、花粉や紫外線に顔をしかめていたことだろう。自分の意思で動けるのは、神があたえたもうた奇跡だというのに。

私は、ゆっくりと体を起こし、上半身と動く片足を使いながら、ベッド脇の車椅子に移る。誰の助けも借りずに、車椅子に乗り移ることができるようになっただけでも、嬉しく感じる。自由というのは、できなくなって、はじめてその尊さがわかるものだ。

小さな手さげカバンに財布とスマホだけを入れて、車椅子で、談話室に行くつもりだった。車椅子の操作は、まだ不慣れだ。相部屋の方のベッドにぶつからないように、ゆっくり進む。

けれど、向きを変える時に、向かいの方のカーテンにあたってしまった。閉まっていたカーテンが揺れる。

「ごめんなさい。」

私は謝る。無言で、動いたカーテンが閉まる。私は少し落ち込んでしまう。ちょっとしたことも、うまく扱うことができない。自分の体を自分の思うように動かせないのは、予想外にストレスがかかるのだ。

昼食後すぐの、昼下がり。あちらこちらに、食べ残しのトレイが置かれたワゴンが置いてあった。動くことがないので、そんなにお腹も減らないものだ。無為な日々は、食べる気力もわかない。でも、体力をつけるには、食べるしかない。その葛藤の毎日だ。それが、痛いほどわかる。完食されているトレイを見て、人ごとながらにほっとする。そんなワゴンをよけながら、談話室に向かう。

昼食が終わったばかりなので、見舞客も少ない。閑散とした談話室で、お気に入りの窓際の席に進む。椅子を四苦八苦しながら、引きずり出し、車椅子のスペースを作る。

光に満ちた窓から、公園の池が見える。池の周りの遊歩道の桜は、まだ、三分咲きほど。でも、この暖かさなら、明日にはもっと咲くだろう。池には、かるがもの親子が列を作って、泳いでいる。おぼつかなく泳ぐ子がもがかわいらしい。

スマホに、ヘッドフォンをつなげて、音楽を聴く。今、繰り返し繰り返し聴いている曲がある。

今の私にまっすぐ届く曲。生への希求を感じる曲。

「I fly…」

その瞬間、光が射した。

そして、私は気付いた。

私には、未来があることを。


inspired by

「LAY YOUR HANDS ON ME」

by BOOM BOOM SATELLITES

地上三センチの浮遊

2017-04-23 21:18:07 | エッセイ
「過去を手放すこと」

あまりにも苦しく、辛い出来事を経験すると、どうしても失ってしまうものがあります。深く傷ついて、戻らないものも。

それは、私のささやかな人生の中で、起こってきた事実です。

壊れてしまったものは、治らない。けれど、人は、それを補おうとする強さがあります。

それも、私のささやかな人生で、手に入れた事実です。

苦しく、辛い過去を無理矢理忘れることはないと思います。

怒りや憎しみを無理矢理抑え込むこともないと思います。

(もちろん、それらを誰かにぶつけることは、負の感情の連鎖になりますから、しないに越したことはありません。)

何かに怒り、何かを憎むのは、人間である以上、避けられません。

その気持ちを受け入れることが、大事なことなのです。

苦しくて、辛い渦中にいる時は、自分を責め、自分に価値がないと思い込んでしまいます。

そして、その過去に囚われたままだと、自分で自分を信じることができません。

それは、

どれだけ大きな絶望か!

私は、とても自己評価の低い人間でした。(今でも、その傾向はありますが。)

でも今は、

誰も何も責めることなく、その過去を生き抜いた自分を褒めてやりたいのです。

それをしてはじめて、

自分が前を向けるようになるのです。

人は、もがき苦しみ、それを抜けたかと思っても、また、泥沼にはまってしまう。

そんな繰り返しだとしても。

自分は、生き抜いてきた。

それだけでも、自分を評価できる根拠となりうるのです。

過去を手放すには、現在の自分を肯定することから、はじまるのかもしれません。

チェリー キス

2017-04-12 20:37:22 | 
かわいいキスをしよう

さくらんぼの香りがする

さくらんぼの色に染まる

かわいいキスをしよう

さくらんぼの香りがするのは

君?

僕?

さくらんぼの色に染まるのは

頬?

唇?

かわいいキスをしよう

たくさんのキスをしよう

さくらんぼの味のする

甘酸っぱいキス






散りぬるを

2017-04-12 20:16:02 | 
散る
散る
散る

桜は散りぬる

花は散りぬる

鮮やかな花びら

散る
散る
散る

桜は散りぬる

花は散りぬる

艶やかな花びら

散る
散る
散る

けれど

桜は悲しくない

桜は寂しくない

柔らかな若葉が

萌え出づるから

みずみずしい緑に

覆われる春

桜は笑う



「高く跳べ」

2017-04-08 21:25:53 | 

見えなかった景色が見えるようになる
それは
身のうちに太陽をとりこむことだ

速く走れ
高く跳べ

孤独のようで
孤独ではない

この景色は
「わたくし」
だけのものではない

それを目指す
「あなたたち」
のものでもある

だから

恐れないで

私は



この地平に一人立つ

けれど

私は知っている

速く走れ
高く跳べ

その喜びを分かち合うために

私はここにいるのだ

私の姉妹たちよ

強い風や
激しい雨が

あなたたちを
打ちのめすだろう

私はあなたたちの庇になろう

そのために私は

この荒野を駆けるのだから

明けの明星は

私だけのものではない
あなたたちのものでもあるのだ