天路歴程

日々、思うこと、感じたことを詩に表現していきたいと思っています。
なにか感じていただけるとうれしいです。

龍虎相打たない

2020-07-14 12:27:00 | 小説
散歩。散歩。空中を散歩。今日は、空も晴れ渡り、気持ちがいい。僕の鱗が日差しを浴びて、きらきらと輝いている。
 僕は龍。ギョロ目に長い髭。長い胴体。手には、七色の宝玉。雨を降らせ、雷を呼ぶ。空を飛び、海を統べ、竜穴という地中に穿たれた穴を自由に行き来することができる。
 「おーい、龍くーん。」
 荒々しい岩のてっぺんに、虎くんがいた。黄色と黒の縞模様。ピンとたった尻尾。凛々しい目の輝き。
 流石、あらゆる獣の長である虎くんだ。王者としての風格が、漂っている。虎くんは、風を操ることもできるのだ。
 僕は虎くんの近くまで、下降する。
 「龍くん、散歩かい?」
 「そうなんだ。あまりにも気持ちいい天気だからさ。虎くんは?」
 「俺?俺はトレーニングさ。今朝は、ユーラシア大陸を、端から端まで走ってきたよ。」
 「…元気だね。」
 「そう?東の端と西の端でさ、金の林檎と銀の林檎とってきたんだ。龍くんにあげるよ。どっち食べる?」
 虎くんは、なかなか優しいのだ。金の林檎も銀の林檎も光を受けてキラキラ輝いている。
 「食べるの、勿体ないぐらい綺麗だねえ。…うーん、じゃあ銀の林檎!」
 「じゃあ、俺、金の林檎もらうわ。」
 虎くんと僕は、気持ちいい光と風を浴びながら林檎を食べる。
 「虎くん、おいしいよ。ありがとう。」
 「喜んでくれて、うれしいよ。」
 あれ?背中の後ろの方というか、尻尾の方というか、その辺が、急に痒くなってきた。…届かない。掻けないとわかると、余計に気になるし、我慢できなくなってきた。僕は、掻きたくて掻きたくてたまらなくなってきた。

 おや、今までニコニコしてた龍くんが、頭を後ろに向けて、右に左に、グルグル回りだしたぞ。どうしたんだ?
 「龍くん、どうしたんだい?」
 「痒くて痒くてたまらないんだけど、届かないんだよ。」
 ギョロ目の龍くんだから、憤怒の表情に見えるが、違う。心の底から、困っているのだ。
 「痒いよぉ。」
  あ、龍くんの気持ちが昂ってきた。やばいぞ。ゴロゴロ遠くから、雷が鳴っている。
 「わかった。俺が掻いてやるから。」
 俺は、龍くんの背中?尻尾?に飛び乗った。口をあぐっと開けて、ざりざりと噛んで掻いてやる。
 「ううん、そこじゃない。もっと上。」
 「ここか?」
 「違う。もうちょっと左。」
 龍くんは、とても大きいから、なかなか痒い部分が見つからない。痒さとまだるっこさがあるのか、龍くんの感情がますます昂まってきた。あ、雨が降ってきたぞ。
 「違う!そこじゃない。」
 龍くんは、激しく左右に体をうねらせた。俺は振り落とされそうになる。龍くんは、焦る。
 「ご、ごめんなさい。僕、僕…。」
 泣き出しちゃったよ。あ、黒雲がわきあがってきた。雷が轟き、豪雨で前が見えない。まずい。雲を切らなければ、何も見えない。仕方ないなぁ。俺は、咆哮する。強い風が吹いた。
 その時だ。
 下界の村々にいた、人間達が、俺らを指差して叫んでいる。
 「大変だ!龍と虎が戦っている。」
 「だから、こんな大嵐が!」  
 「どうか、争いはやめてくれ。」
  ち、違う…。違うが、それどころじゃない。俺は、一段と大きな声で吠える。ごぉっとひときわ強い風が吹いた。雲が切れ、光が見えた。今だ!俺は、龍くんの背中のある部分を、口で掻いた。
 「そこっっ。」
 龍くんは叫んだ。俺はかじかじと一生懸命掻いた。ぴたっと雷と雨が止んだ。ちょうどいいところを掻いたらしい。痒みが治ったのかな?
 「ありがとう、虎くん。痒くなくなったよ。」
 よかった。俺はほっとする。下界の人間達も、ほっとしたようだ。
 「雨も雷も風もやんだ。よかった。」
 「龍虎相打つとはこういうことか。」
 「龍も虎も戦うとは、困ったもんだ。」
  俺も龍くんも、声を揃えて叫んだ。
 「戦ってないっっ!」
 怒号に聞こえたらしい。人間達は、クモの子を散らすように逃げていった。
 俺と龍くんは顔を見合わす。
 「俺たち」
 「僕たち」
 「仲良しなのにね。」


星のピラミッド

2020-07-03 18:54:00 | 
北極星に導かれた旅人
時の落とし物

砂に隠れて
ひっそりと佇む
ピラミッド

誰にもあばかれなかった
奇跡の墓

スフィンクスは
あくびをしながら
旅人を通す

「門番の役割は退屈だ」
「おまえは主に仇なすことはないだろう」

ピラミッドの内部は
胎内に入り込むような

不思議な懐かしさを感じる

壁には

動物
植物
精霊

踊り惑い飛び跳ね

無表情な大きな目で
旅人を見ている

ファラオの間
黄金で飾られた棺に

ミイラのファラオが
腰かけていた

「一瞬なのか永遠なのか」

シナモンの香り

吹くはずのない
一陣の風

パンの笛の音

旅人は星の海に沈む

これは幻?

星の波が引いていく

ピラミッドを後にする

旅人の姿

謎めいた笑みと
微かなシナモンの香り