心が欲しいと思うのは、大きすぎる望みなのだろうか。
夜は、更けた。私は、仰向けのまま、闇をぼんやりと見る。
彼は、背中を向けて、軽くイビキをかいて眠っている。
私を求め、私を揺らし、私を濡らし、満足した彼は、私を放り出して、眠りについた。
私は、独りだ。
独りではないことを証明しようとして、ここにいるつもりだったのに。独りを食めば、空っぽになる。
空っぽな心は、貪欲で、もらってももらっても、もっともっとと欲しがる。
私は、寂しかったのでしょう?
一人が嫌だったのでしょう?
抱き合いたかったのでしょう?
それは、クリアしたのではないの?
もう一人の私は、私に問いかける。
こんなの、物理的に一人でいるより、独りだ。
もう一人の私に、私は叫ぶ。
一人なら、諦めがつく。独りは、心が冷たく壊死しそうになる。私は、寂しくて寂しくてたまらない。
彼は、ただ、器が欲しかっただけ。欲望を満たす器。私でなくてもいい。こんな、代替可能な部品みたいな扱い…。
いや、いっそ物みたいに、扱われたら、まだましだったかもしれない。自分が、物だと、心がないと思い込めたかもしれないから。
でも、彼は、私を人間として扱った。私が人間で、心があると思い知らすかのように、傷つけた。もちろん、彼には、そんな意図はなかっただろうけど。
目の前の欲望に、忠実だっただけ。
欲望の果実を、貪欲にもぎ取ろうとしただけ。
だからこそ、私を人間として、奈落の底に突き落としたのだ。
林檎を貪るまでは、優しく撫でて。林檎を芯まで喰らい尽くしたなら、それまで。私は、もういないも同然なのだろう。
もう一人の私は、ため息をつく。
それでも、いいと思ったのではないの?体だけだとわかっていたのではないの?本当は、期待してたんでしょ?
体を許したら、心まで愛してくれると。
甘い恋愛小説みたいな、戯言を信じたんでしょう?
残念でした。
もう一人の私は、残酷に笑う。
もう、心身共に、ボロボロになってしまえばいいのよ。
私は、その通りね、ともう一人の私にうなずく。
壊れても、もういい。
ブレーキのきかないバイクで、アクセルを踏んで、そのまま崖から落ちてしまいたい。
私は、眠れない。
このまま、喉に詰まるような、夜の砂を噛み続けるのだろう。
なんだか酷く哀しいです。
昔のヤンチャだった自分を思い出しました。