天路歴程

日々、思うこと、感じたことを詩に表現していきたいと思っています。
なにか感じていただけるとうれしいです。

夜の砂を噛む

2020-05-14 12:12:00 | ショート ショート
 心が欲しいと思うのは、大きすぎる望みなのだろうか。
 夜は、更けた。私は、仰向けのまま、闇をぼんやりと見る。
 彼は、背中を向けて、軽くイビキをかいて眠っている。
 私を求め、私を揺らし、私を濡らし、満足した彼は、私を放り出して、眠りについた。
 
 私は、独りだ。
 
 独りではないことを証明しようとして、ここにいるつもりだったのに。独りを食めば、空っぽになる。
 空っぽな心は、貪欲で、もらってももらっても、もっともっとと欲しがる。
 
 私は、寂しかったのでしょう?
 一人が嫌だったのでしょう?
 抱き合いたかったのでしょう?
 それは、クリアしたのではないの?


 もう一人の私は、私に問いかける。
 
 こんなの、物理的に一人でいるより、独りだ。
 
 もう一人の私に、私は叫ぶ。
 
 一人なら、諦めがつく。独りは、心が冷たく壊死しそうになる。私は、寂しくて寂しくてたまらない。
 彼は、ただ、器が欲しかっただけ。欲望を満たす器。私でなくてもいい。こんな、代替可能な部品みたいな扱い…。
 
 いや、いっそ物みたいに、扱われたら、まだましだったかもしれない。自分が、物だと、心がないと思い込めたかもしれないから。

  でも、彼は、私を人間として扱った。私が人間で、心があると思い知らすかのように、傷つけた。もちろん、彼には、そんな意図はなかっただろうけど。
 
 目の前の欲望に、忠実だっただけ。
 欲望の果実を、貪欲にもぎ取ろうとしただけ。
 だからこそ、私を人間として、奈落の底に突き落としたのだ。

  林檎を貪るまでは、優しく撫でて。林檎を芯まで喰らい尽くしたなら、それまで。私は、もういないも同然なのだろう。
 
 もう一人の私は、ため息をつく。
 
 それでも、いいと思ったのではないの?体だけだとわかっていたのではないの?本当は、期待してたんでしょ?
 体を許したら、心まで愛してくれると。
 甘い恋愛小説みたいな、戯言を信じたんでしょう?
 
 残念でした。
 
 もう一人の私は、残酷に笑う。
 
 もう、心身共に、ボロボロになってしまえばいいのよ。
 
 私は、その通りね、ともう一人の私にうなずく。
 
 壊れても、もういい。
 ブレーキのきかないバイクで、アクセルを踏んで、そのまま崖から落ちてしまいたい。
 
 私は、眠れない。
 
 このまま、喉に詰まるような、夜の砂を噛み続けるのだろう。


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1 コメント

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Unknown (ひいな)
2020-05-15 16:44:52
はじめまして。
なんだか酷く哀しいです。
昔のヤンチャだった自分を思い出しました。

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