天路歴程

日々、思うこと、感じたことを詩に表現していきたいと思っています。
なにか感じていただけるとうれしいです。

零れ落ちるもの

2020-02-29 18:04:00 | 
失くしてしまった感情

ドアの向こうに何があるのか

どうでもいい

吹き荒ぶ風に

弄ばれて

塩辛い海の水を

飲まされて

灼熱の太陽に

焼かれて

鉛の重りを

括り付けられて

世界は

非情で無情

それだけ

知れば

十分だろう?

体には

十字の傷

緋色の印

もう

これだけ

苛めば

十分だろう?

いいや
いいや

地獄の奥底から

聞こえる

まだ

おまえは

搾り取れる

まだ

おまえを

酷使する

まだだ
まだだ

灰になるまでは

間がある

所詮

歯車

替はいくらでもあり

使い捨ての駒

それでも

ひとしずくまで

残らず

啜り尽くす

それが

「効率的」

というものだ



夜半の月

2020-02-16 14:28:00 | ショート ショート
 夕方、父が入所している施設から、連絡があった。

 施設で、誤飲して、意識不明になったため、急遽、救急車で病院に搬送されたとのこと。

 慌てて、搬送先の病院のICUに行った時点で、手遅れなのは、すぐにわかった。

 チューブに繋がれ、もう、排泄すらもできない父は、カテーテルを入れられ、機械に生かされていた。

 機械を外せば、もう、命はない。ただ、繋がれているのは、家族が最後の別れをするためだけ。

 母と一緒に向かった私は、父に触れるのが怖かった。死にゆく父に触ると、何かが、私に流れ込むような気がして。

 母は、逆だった。

 「お父さん。お父さん。」

 話しかけながら、自分の力を、命を、与えるかのように、父の頬を撫ででいた。

 私は、母の愛情深さや、与えることが当たり前のメンタリティに触れ、打ちのめされた。

 なぜ、そんなに献身的になれるのだろう。

 あんなに、父にないがしろにされ、罵られ、最終的には、認知症になって、子供にかえってしまったのに。

 母にとっては、夫。私にとっては、父。

 この立場の違いは、見方も変わってくるのだろうか。

 それとも私は、血の通わない、冷血な人間なのだろうか。

 私は、ただ立ちすくんで、見つめることしかできなかった。

 何時間たっただろうか。

 父のバイタルは、緩やかに下降していっていた。死に向かっているのは、明らかだった。

 「…健太に連絡してくるよ。」

 私は、病院の外に出た。

 県外に住んでいる弟に、電話をする。

 真夜中だ。眠っているだろう。何回も何回もコールをする。

 「…はい。」

寝ぼけた声。やはり、叩き起こしてしまったのだろう。

 「私。お父さんが、危篤なの。今、〇〇病院に入院してる。」

 「えっ。」

 弟は、目が覚めたようだ。

 「なんで。」

 「施設で、誤飲したらしいの。意識不明のまま、〇〇病院に搬送されて。今日が、山場らしい。」

 「…そう。」

 「帰ってこれる?」
 
 「…どれくらいにそっちにつくか、また連絡する。」

 「わかった。」

 私は、スマホを切った。父のお気に入りだった弟。弟が、到着するまでは、持って欲しいと思った。

 …そう思うこと自体が、罪なのかもしれない。父の生存を、私は、もう諦めてしまってるのだから。

 2月なのに、不気味なくらい生暖かい夜だ。ひっきりなしに、救急車のサイレンが鳴り響く。

 私は、空を見上げる。夜空に浮かぶ月は、薄雲に透けている。中天にかかる月。

 長い長い夜になりそうだ。

 



 

悲しみは夜の果てにある

2020-02-02 20:48:00 | 
ああ
眠ることを奪われた夜

現世から
身を翻したかの人は

夢うつつの世界で
身悶えし

夜の恐怖を
破壊しようと
暴れている

昼は
うつらうつら

静かに
境界線に
身を潜めている

眠りに誘われる夜に
覚醒し

不安の塊を
ぶつけてくるのだ

ここでまだ
生活している身には

眠りを奪われるのは
つらいこと

けれど

誰の助けを得ることのできない身

疲弊と苛立ちを募らせたまま

細く乾いた腕をとり

聞こえぬ心に

説得を試みる

徒労だと

わかっているのに


甘くて悲しい

2020-02-01 20:37:00 | 
柔らかい髪の毛
あなたの手触り
繰り返し触る

冬の夕暮れは
とても速くて

あなたの顔が
だんだらに
染まる

あなたとの
逢瀬は

金色の蜜

あなたとの
接吻は

真珠の雫

それなのに

なぜだろう

黒い手で

心臓を
掴まれる

日々は
過ぎ去る

そういうことだろうか

胸の痛みは

喜びで張り裂けそう
なのか

怯えで脈打ってる
のか

わからないでいる