天路歴程

日々、思うこと、感じたことを詩に表現していきたいと思っています。
なにか感じていただけるとうれしいです。

黒い瞳

2022-05-17 17:01:00 | 
もう嘘をつきたくない
まわりにも
じぶんにも

泥が靴の中に入り込む
歪な力関係が鞭を打つ

澄んだ瞳は
虚な瞳に
変貌する

地べたに転がる

無表情
無気力
無価値

どうしようもなく見えるだろうか?

絶望
よりも酷い
虚無

黒い瞳には
何もうつらない






つらつらつれづれ

2022-03-05 19:57:00 | エッセイ

空を滑空している鳥。黒い大きな影。なんの鳥かは分からない。曇天模様。薄暗いホームから見上げると、その鳥はあまりにも自由で、のびやかに見えた。私はため息を一つつく。暗いトンネルに続く道。奈落の底でなかったらいいのだが。先に光があるのかどうかさえ、わからない。

 

 電車の中。マスクに覆われている顔は、同じように見える。そして、私もその一員だ。灰色で無表情の群れ。いろんな思いを抱え、ばらばらな楽隊は自分の目的の駅に降りていく。不思議な空間。誰とも交わることは無いのに同じ場所で、肩が触れ合うような距離で揺られている。

 

 駅に降り立つ。たくさんの人が慌ただしく行き交っている。地方都市の主要駅。人が多いと感じても上には上があり、下には下がある。「この程度」と感じるか、「こんなにも」と感じるかは、自分次第。自分という器から逃れることはできない。自分が「狭い視点から見ている」ということを忘れないようにしよう。

 

 今日は午後から雨との予報。気圧のせいだろうか、頭が重い。季節の変わり目には雨が降る。四季では、春から初夏にかけてが好きだ。少しずつ暖かくなり、カラフルになってくる季節。生き物が育つ季節。だから、この季節の雨は嫌いじゃない。一雨ごとに暖かくなり、春の息吹を感じられるから。日が長くなり、光が力を持ってくる季節だ。

 

 海を見るのは楽しい。季節、天候、自分の体調や気分によって見える世界が違う。自分が見る海は、内海。だいたい穏やかで、遠くに見える島や通る船でにぎやかだ。自分が想う海は、いつも優しい。厳しさもあるのは頭ではわかっているのだが、本当の意味でわかっているとは思えない。灰色だった海が、淡灰色になり、水色になり、縹色になり、瑠璃色になり、群青になっていく。そして、光もどんどん強くなり、まばゆいきらきらを溶かし込んでいく。潮騒、潮の香、海鳥の旋回。いつまででも見ていれる世界。

 

 言葉は好きだ。けれど、うまく使うことができない。思うように操ることができない。それは技術のせいか、内面のせいか。どんなことでもそうかもしれないが、扱う人間の技量と度量がためされる。そして、それは両方とも必要で大事なことだ。特に言葉は、友愛の印になり、恫喝の拳になり、嘲笑の鞭になり、慰撫の羽となる。言葉を武器として(自分のためだけの道具として)だけ使うことを是としたくない。それをすることは、言葉を持つことができた人間である甲斐がないような気がするのだ。(言い表すのが難しい。)力を誇示することによっての、力で威嚇することによっての、関係を作りたくない。そういう関係は、つらいものだったからだ。自分が嫌だったことを相手に強要したくない。ただ、愚かであるがゆえに、絶対にしないとは言い切れず、弱さを露呈してしまう。そして、自分自身が叩かれる立場になったときに、毅然とした態度を取れるとも思えない。それも己の弱さであり、知恵の足りなさだと思う。どうすればいいのか、その答えがわかるときがくるのだろうか。

 

 世界ははかない。揺れ動く卵だ。すぐに割れてしまう。中にいるひな鳥(人間)は殻が強固なものだと思い込んでいるが、驚くほど脆い。殻が割れてしまってから右往左往するひな鳥。それも仕方ないことではないだろうか。ひな鳥は、賢くなる前に寿命が尽きてしまう。人の一生は、長いようで短い。何かをつかむ前に死んでしまう。私自身何もわからないまま死んでしまうだろう。それを思うと、悲しいようなおかしいような、何とも言えない気持ちになる。

 

 退屈でいい。刺激はいらない。いつもの毎日。変わらない日々。それを求める。変化を恐れ、変化を拒み、変化を厭う。年を取ればとるほどかたくなになっていく。過去にとらわれ、過去を美化する。年を取るということの弊害かもしれない。社会にどんどん置いていかれる。そして、そんな社会を恨み、意固地になる。それは、年を取ることの悲哀だ。といっても、年を取る者が、それを美化しても肯定してもいけない。周囲に理解しろと強要してもいけない。今から道を切り開く人の邪魔をしてはいけないのだ。「老兵はただ立ち去るのみ」自分の立ち位置はどこにあるのだろう。

 


光の向こうへ

2022-02-25 19:00:00 | 

茫漠とした世界

広大な世界


道標はない

というよりも

道とは何か?

答えすらわからない


たくさんの声

たくさんの手

たくさんの目


「だから言ったじゃん」

後出しジャンケンの戯言


「ラクするなんて許さない

 ズルするなんて許さない」

羨望と絶望の足の引っ張り合い


「無能だ

 無能だ

 コスパ

 コスパ」

喚くアジテーター


自分を苛むな

所詮は

ハヤリの思想

それに

あわないだけさ


情報だけが

隕石のように降り注ぐ

まともに受け止めるな

まじめに受け止めて

血まみれになる必要はない


上も

下も

なく


ただ

おのれであるか

おのれでないか

だけ


わけがわからなくなって

立ちすくむ

自分を蔑むな


所詮は

サカシゲな空虚


ヒトは

どんなに

頭のいいふりをしたって

宇宙の理のカケラすら

知りはしない

それを悲しむことはない

そういうものだから


ただ


光の向こうへ

その

希求の思いだけ

それだけ

持っていよう


キスして

2022-01-06 21:01:00 | ショート ショート

冬の海は冷たい。風が吹く。ニット帽を深くかぶり直す。耳たぶが痛い。
 
 海はどんよりとした灰色だ。光を内包しているようには見えない。マットな灰色。
 
 ざらっとした紙をくしゃくしゃにしたような波が立っている。

 平日。冬の海。曇天の空。内海の砂浜。人は少ない。

 せいせいする。

 寂しいけれど、誰とも喋りたくない。

 自分勝手な思いでくさくさしている私には、ちょうどいい場所。

 右ポケットのスマホが振動する。

 今は、ちょっと知らないふり。

 顔が強張るような冷たい空気。潮の香りが鼻を刺激する。

 砂浜に足を取られながら、ゆっくり歩く。 

 波打ち際。打ち寄せる波が白く泡立つ。穏やかな外気であれば、いつまでも見ていられるけれど。

 今はあまりにも寒い。

 私はブルっと身震いをして、カイロがわりの缶コーヒーを左ポケットから取り出して握る。

 冷めないうちに飲んでしまおう。

 歩きながら、飲む。

 コーヒーとは名ばかりの生ぬるい甘ったるい液体が喉を通り抜ける。

 やはり少し冷めてしまっていた。

 頭も少し冷えた。

 不貞腐れた気持ちも、いらいらしていた気持ちもトーンダウンした。

 私は

本当に疲れてたんだ。

 だから、

ささいな行き違いに我慢ができなかったんだ。

 寂しいという目盛りがぐっと上がった。

 スマホをかけ直す。ラインじゃない。声が聞きたい。

 ワンコール。すぐ出てくれた。ほっとする。

 「ごめんなさい。さっき出なくって。ごめんなさい。あんな態度取って。…うん、うん。甘えてしまって。いやな気持ちにさせてごめんなさい。」

 「今、とても寒くて寂しい。あなたとキスしたい。今。すぐにでも。」

 私は、今の気持ちを素直にこぼす。きっと波のせいだ。



紫に近い濃紺

2021-11-08 18:15:00 | 
涼しげな風
明日からは寒くなるという
晩秋の夕べ

空は
日の名残を溶かした
夜の色

光は
濃紺の空に
紫のひとはけを
加えている

雲は
暗く浮かび上がり
秋のかたちをとっている

三日月が
蜂蜜のように溶けて

ひとつの星が
三日月に
寄り添うように
まどろむ