天路歴程

日々、思うこと、感じたことを詩に表現していきたいと思っています。
なにか感じていただけるとうれしいです。

梅花香11

2019-02-24 12:55:14 | 小説
月に薄雲がかかっていた。朧月夜。

清吉は小さな稲荷神社の境内でそわそ

わと待った。今夜はかりんとうを売っ

ていても足に地がつかないような心持

ちだった。高嶺の花だった小勘に情を

かけられるとは思ってもみなかった。

彼は降ってわいたような幸運をかみし

めていた。暗闇に浮かび上がる狛犬も

時折聞こえる木々のざわめきも怖いと

は思わなかった。ひたひたという足音

が聞こえてきた。清吉は顔を輝かせて

振り向いた。そこには小勘が立ってい

た。ただ、小勘一人ではなかった。屈

強な若い衆が数人、幇間が一人、大店

の主人らしき人物が一人、ついてきて

いた。一人一人がちょうちんを持って

いたので、驚くほど明るかった。小勘

は後ろを振り返って、旦那らしき人物

に向かってあでやかに笑う。

「ほら、いたでしょ。勝ちは頂きま

したよ。」

「さすが小勘姐さん。小勘姐さんに

参らぬ者はおりません。瑞兆なる美し

さ。いや、天晴れでございます。」

幇間がもみ手をしながら小勘に世辞

を言う。清吉だけが蚊帳の外だった。

わけがわからず、立ちすくんでいた。

小勘は清吉を見た。そして、一生忘れ

られないような冷たい声音で言い放っ

た。

「おまえのような鬼瓦に誰が惚れる

もんかね。おのれの顔を見てみやが

れ。」

最新の画像もっと見る

コメントを投稿