天路歴程

日々、思うこと、感じたことを詩に表現していきたいと思っています。
なにか感じていただけるとうれしいです。

夜はただそこにある

2015-09-17 19:39:08 | 
夜はただそこにある

恐怖をもらたすものではなく
孤独をもたらすものではなく

夜はただそこにある

異世界をもたらすわけではなく
乱痴気をもたらすわけではなく

夜はただそこにある

幽霊も妖怪も

夜が連れてくるのではない
人が連れてくるのだ

全ての痛み
全ての寂寥
全ての酔い
全ての戯れ

夜のせいではない
人が喚起するのだ

夜の世界
夜の気分
夜の口づけ

それは夜のせいではない

人の胸先三寸なのだ

人の脳内麻薬のせいではないか

夜はただそこにある

人の右往左往
人の乱舞

それを尻目に

夜はただそこにある

松の原、海の原 1

2015-09-05 12:46:05 | 小説
夢を見る。寂しく濃いミッドナイトブルー。僕はただ一人そこに立つ。声だけが聞こえる。

「あなただけは、私を受け入れてくれる。」

「あなただけよ、私を抱いてくれるのは。」

「あなただけは、私を見捨てないでしょ。」

あなただけは。あなただけは。優しい声で繰り返される。僕はじわじわと息苦しくなる。僕は裏切った。彼女の儚い願いを。彼女の微かな祈りを。裏切った。裏切ったのだ。

僕は目覚めた。荒い息をつく。体中がこわばっていた。ゆっくりと息をはいた。枕元の時計を見る。午前三時。毎夜見る夢。そして、同じ時間に目が覚める。早く寝ようと遅く寝ようと。そして、もう眠れなくなるのだ。僕は体を起こす。静かにベッドから降りる。ため息をついた。体が重い。泳いだ後のようだ。もちろん、その後の爽快感はない。疲労感だけが僕にのしかかる。静かに伸びをする。ベランダのカーテンを開ける。夢と同じ空の色。ミッドナイトブルーだ。

キッチンテーブルでほうじ茶を飲む。どうせ眠れないのだから、コーヒーを飲んでもいいはずなのだが、飲む気にならない。もしかしたら眠くなるかもと思い、カフェインレスのものを飲んでしまうのだ。ただ、この夢を見るようになって一度も再び眠けに襲われることはなかった。体は悲鳴をあげているのだが、心はがんとして休息を与えない。そんな状態が続いていた。