朝。翔太は台所に向かう。翔太はお腹が減っている。彼は冷蔵庫を開けて、牛乳を取り出した。母親が声をかける。
「おはよう。」
「おはよう。」
「あれ、シャワー浴びたん。」
翔太の髪は濡れていた。
「うん。起きたら、汗びしょやったから。」
「そんなに晩、暑かったけ。」
翔太はそれに答えず、ダイニングテーブルのほうを見る。父親が定位置にいる。いつものように新聞を読んでいる。翔太は覚悟をきめて、謝る。
「昨日はごめんなさい。」
父親は新聞をたたみ、脇に寄せる。翔太の目を見る。
「翔太は何が悪いと思って、謝ってるん。」
「昨日、学校をさぼってしまったから。お父さんやお母さん、先生や友達に心配をかけてしまったことを反省してる。」
父親は翔太をじっと見ている。怒ってはいない。静かに言う。
「そうやな、同じことは繰り返さないほうがいいな。ちゃんと先生や友達にも謝っとき。」
母親が父親に昨日の話をどう伝え、2人でそのことについてどう話し合ったかは、翔太にはわからなかった。ただ、話しはそれで終わった。翔太は拍子抜けした。手持ち無沙汰になるが、翔太は牛乳を飲もうとしていたことを思い出した。翔太はまた牛乳を口飲みしようとする。父親と母親が声を揃える。
「翔太、コップ。」
翔太は頭をかきながら、食器棚に向かう。その時、どしんどしんと階段を降りる音が聞こえた。姉が台所のドアを開けた。ふくよかな体を揺らしながら、台所に入ってきた。翔太はおずおずと声をかける。
「おはよう。」
少しの間。姉はぶっきらぼうに挨拶を返す。
「おはよう。」
翔太は反射的に姉の手を見た。
姉の指にピンキーリングはなかった。
〈終〉