「才能があるという孤独、才能がないという苦悩」
『ファイアーボール•ブルース』
桐生夏生
本棚の奥底から発掘された本です。久しぶりに読み返しました。ある意味、ハードボイルドな作品です。(「ハードボイルド」の定義が、損得や常識、世間にとらわれず、自分の筋、侠気を貫くために戦うというのであれば。)
女子プロレス界きっての強者、火渡抄子といまだに一勝もできずにいる彼女の付き人、近田が外人選手の失踪事件に巻きこまれます。
どの世界でも、綺麗事ではすまされない面を持っています。そして、それに対峙した時、多かれ少なかれダメージを負うものです。それとの向き合い方によって、人間としての資質が露呈してしまうのです。
火渡の付き人、近田が語り手をつとめます。彼女は、プロレスを愛してるし、頑張ってもいます。しかし、それを極めるまでの才能があるかというと疑問です。平凡です。だからこそ、私達は感情移入がしやすいと思います。ある意味、視野が広く、オールラウンダーとも言えます。普通の良さを持っている人間です。(本人は嫌がるでしょうが。)火渡という、偉大な存在が身近にいるというのは、幸であり不幸でもあったでしょう。なぜなら、彼女は賢いから。火渡のすごさを目の当たりにするたびに、自分の限界がわかってくるのは、つらいことでしょう。才能がないという苦悩は、自分の限界が見えてくることによって生まれるものですから。
火渡は格闘者として生まれてきた人間でしょう。それは男とか女とか関係なく、その魂を持っているとしか言いようがない。莫大な才能を持った人間はそれ相応の代価を支払っているのです。自分の目指す道は明らかではっきりしています。そして、それにすべてを捧げます。それに迷いも悔いもありましせん。彼女にはそれしかない。すべてのことがそこにつながっているのです。だから、彼女にはある意味、狂気がやどっているとも言えます。才能があるもの特有の狂気。ひとつのことにすべてを捧げることのできる狂気。他のことは、どうでもいい。理解されることはないでしょう。他の人にはわからない感覚ですから。彼女ならではの筋、彼女ならではの理。彼女にも悩みや苦しみはあるのでしょうが、それは誰とも共有できない。彼女は聡明で思索的です。そうでなければ、自暴自棄になり潰れてしまうでしょう。自分で自分のおとしまえをつけなければならない。そういう生き方しか選択できない。才能というのは、孤独と同義語なのかもしれません。
とにかく、火渡抄子という人間はぶれません。謎を追うのも、外人選手を一人の格闘家として彼女が認めていたから。
非凡であるがゆえの闘い、凡人であるからこその闘い。勝つことはなく、負けることは許されない。だからこそ、光り輝く瞬間があるのでしょう。
なんだか、そう思えたストーリーでした。
『ファイアーボール•ブルース』
桐生夏生
本棚の奥底から発掘された本です。久しぶりに読み返しました。ある意味、ハードボイルドな作品です。(「ハードボイルド」の定義が、損得や常識、世間にとらわれず、自分の筋、侠気を貫くために戦うというのであれば。)
女子プロレス界きっての強者、火渡抄子といまだに一勝もできずにいる彼女の付き人、近田が外人選手の失踪事件に巻きこまれます。
どの世界でも、綺麗事ではすまされない面を持っています。そして、それに対峙した時、多かれ少なかれダメージを負うものです。それとの向き合い方によって、人間としての資質が露呈してしまうのです。
火渡の付き人、近田が語り手をつとめます。彼女は、プロレスを愛してるし、頑張ってもいます。しかし、それを極めるまでの才能があるかというと疑問です。平凡です。だからこそ、私達は感情移入がしやすいと思います。ある意味、視野が広く、オールラウンダーとも言えます。普通の良さを持っている人間です。(本人は嫌がるでしょうが。)火渡という、偉大な存在が身近にいるというのは、幸であり不幸でもあったでしょう。なぜなら、彼女は賢いから。火渡のすごさを目の当たりにするたびに、自分の限界がわかってくるのは、つらいことでしょう。才能がないという苦悩は、自分の限界が見えてくることによって生まれるものですから。
火渡は格闘者として生まれてきた人間でしょう。それは男とか女とか関係なく、その魂を持っているとしか言いようがない。莫大な才能を持った人間はそれ相応の代価を支払っているのです。自分の目指す道は明らかではっきりしています。そして、それにすべてを捧げます。それに迷いも悔いもありましせん。彼女にはそれしかない。すべてのことがそこにつながっているのです。だから、彼女にはある意味、狂気がやどっているとも言えます。才能があるもの特有の狂気。ひとつのことにすべてを捧げることのできる狂気。他のことは、どうでもいい。理解されることはないでしょう。他の人にはわからない感覚ですから。彼女ならではの筋、彼女ならではの理。彼女にも悩みや苦しみはあるのでしょうが、それは誰とも共有できない。彼女は聡明で思索的です。そうでなければ、自暴自棄になり潰れてしまうでしょう。自分で自分のおとしまえをつけなければならない。そういう生き方しか選択できない。才能というのは、孤独と同義語なのかもしれません。
とにかく、火渡抄子という人間はぶれません。謎を追うのも、外人選手を一人の格闘家として彼女が認めていたから。
非凡であるがゆえの闘い、凡人であるからこその闘い。勝つことはなく、負けることは許されない。だからこそ、光り輝く瞬間があるのでしょう。
なんだか、そう思えたストーリーでした。