天路歴程

日々、思うこと、感じたことを詩に表現していきたいと思っています。
なにか感じていただけるとうれしいです。

地上三センチの浮遊

2014-05-29 16:52:03 | エッセイ
「才能があるという孤独、才能がないという苦悩」

『ファイアーボール•ブルース』
桐生夏生

本棚の奥底から発掘された本です。久しぶりに読み返しました。ある意味、ハードボイルドな作品です。(「ハードボイルド」の定義が、損得や常識、世間にとらわれず、自分の筋、侠気を貫くために戦うというのであれば。)

女子プロレス界きっての強者、火渡抄子といまだに一勝もできずにいる彼女の付き人、近田が外人選手の失踪事件に巻きこまれます。

どの世界でも、綺麗事ではすまされない面を持っています。そして、それに対峙した時、多かれ少なかれダメージを負うものです。それとの向き合い方によって、人間としての資質が露呈してしまうのです。

火渡の付き人、近田が語り手をつとめます。彼女は、プロレスを愛してるし、頑張ってもいます。しかし、それを極めるまでの才能があるかというと疑問です。平凡です。だからこそ、私達は感情移入がしやすいと思います。ある意味、視野が広く、オールラウンダーとも言えます。普通の良さを持っている人間です。(本人は嫌がるでしょうが。)火渡という、偉大な存在が身近にいるというのは、幸であり不幸でもあったでしょう。なぜなら、彼女は賢いから。火渡のすごさを目の当たりにするたびに、自分の限界がわかってくるのは、つらいことでしょう。才能がないという苦悩は、自分の限界が見えてくることによって生まれるものですから。

火渡は格闘者として生まれてきた人間でしょう。それは男とか女とか関係なく、その魂を持っているとしか言いようがない。莫大な才能を持った人間はそれ相応の代価を支払っているのです。自分の目指す道は明らかではっきりしています。そして、それにすべてを捧げます。それに迷いも悔いもありましせん。彼女にはそれしかない。すべてのことがそこにつながっているのです。だから、彼女にはある意味、狂気がやどっているとも言えます。才能があるもの特有の狂気。ひとつのことにすべてを捧げることのできる狂気。他のことは、どうでもいい。理解されることはないでしょう。他の人にはわからない感覚ですから。彼女ならではの筋、彼女ならではの理。彼女にも悩みや苦しみはあるのでしょうが、それは誰とも共有できない。彼女は聡明で思索的です。そうでなければ、自暴自棄になり潰れてしまうでしょう。自分で自分のおとしまえをつけなければならない。そういう生き方しか選択できない。才能というのは、孤独と同義語なのかもしれません。

とにかく、火渡抄子という人間はぶれません。謎を追うのも、外人選手を一人の格闘家として彼女が認めていたから。

非凡であるがゆえの闘い、凡人であるからこその闘い。勝つことはなく、負けることは許されない。だからこそ、光り輝く瞬間があるのでしょう。

なんだか、そう思えたストーリーでした。

薔薇と蜜蜂

2014-05-26 10:12:48 | 
気高く
美しく
孤高に
咲いていた

甘やかに
艶やかに
華やかに
香っていた

不埒に
無粋に
触れようとすれば
鋭い棘で
威嚇する

女王の女王たるゆえん

地面に根を張り
艶然と微笑んでいた

ある日

羽を細かく震わせて
蜜蜂が飛んできた
蜜蜂は薔薇に言う

「美しいけど孤独な方ね」

薔薇はつんと上を向く

「私には誰も何も必要ないもの」

蜜蜂はその言葉にかまわず
薔薇の鮮やかで柔らかな花弁に
着地する

「それでは
なぜそんなあでやかに咲くの
なぜそんなかぐわしく香るの
誰かを 何かを
惹きつけるためでしょ」

薔薇の花弁が赤く染まる

「そんなの知らないわ
気付いたら
私はこの姿形だったのだから」

蜜蜂はふくみ笑いをする

「あたしが教えてあげる」

蜜蜂は
そっと薔薇の奥深くに入り込む

薔薇は驚いて身を震わせる

蜜蜂は黄色い花粉を
身につけて
這い出できた
そして
にんまり笑う

「あなたは自分の分身を作るために
着飾るのよ
お運びするあたしたちを
誘うために
それが
あなたの本能なの」

薔薇は衝撃を受ける
恥ずかしくて悔しくて
露をしとどにこぼす

蜜蜂はなだめるように
薔薇のまわりを飛びまわり
優しく諭す

「動けぬあなたは
動けるあたしに
生命の源をあたしに託すの
それとひきかえに」

蜜蜂は薔薇が蓄えた甘い蜜を
自分の口でそっと吸う

「あたしに蜜をくれるのよ
あたしとあなたは
持ちつ持たれつ
あなたは
恥じることも
卑下することもないのよ」

蜜蜂は薔薇の蜜を
体いっぱいにためこんだ

「あなたが
あんまりつんけんしてるから
ちょっと意地悪したの
ごめんなさいね」

からかいを含んだ声を残して
蜜蜂は飛びたった

薔薇は苦笑して
静かに静かに揺れていた





地上三センチの浮遊

2014-05-23 20:34:58 | エッセイ
「親愛を体現するもの」

帰ってきて、玄関先でちぎれるほど尻尾を振って迎えてくれる犬たち。あふれんばかりの愛情表現に、いつも心満たされるのです。

小さな子供たちの大きな笑顔。ほっぺに手にそっと触るだけで、柔らかい気持ちになるのです。

人は成長すれば、かけひきやプライドや力関係やエゴや…いろいろなものに引っぱられて、素直に感じることも表すこともできなくなるのだなと痛感します。(素直さや純粋さが、必ずしも生きるためにプラスに人の世で働くわけではないのです。悲しいことに。)

なんの裏も意図も読みとる必要がない親愛の情を受けとることができるのは幸せなことです。

まっすぐな愛情を示すものたちの尊さや美しさには心打たれます。心が浄化されます。

そんなギフトを受けとることができる私は幸運なのだと思います。

願わくば、この世界が親愛の情をなんのてらいもなく、発することも受けとめることもできるようになったらいいなと思います。

そんな世界には諍いも憎しみも存在しないでしょうから。

けれど、それは長い長い道のりです。

ふてくされず、斜に構えず、皮肉屋にならず、そんな世界を望みたいのです。