天路歴程

日々、思うこと、感じたことを詩に表現していきたいと思っています。
なにか感じていただけるとうれしいです。

花形ギタリストのウィンク

2020-04-11 10:42:00 | 小説
歓声が聞こえる。観客の期待が、膨らんでいる。突けば、破れそうだ。

 ショーが、はじまる瞬間。震えるような、恐怖と快感。この気分に、飲み込まれないように、持っていかれないようにするのが難しい。
 
 興奮のジャンキーになってしまわないことだ。

 そうでなければ、

 ショーというのは、非日常であることを忘れてしまう。

 日常に、ショーの気分を持ち込めば、破滅する。

 それを理解しなければ、

 この世界では、成功はしても、継続することはできない。

 曲がりなりにも、続けることができた、俺の実感だ。

 毀誉褒貶が激しいこの世界で、
 
 壊れることがなかったのは、運が良かったのもあるが、あまり溺れることのない性格のせいかもしれない。

 (この性格は、冷たいと評されることも多々ある。いい面もあれば、悪い面もあるということだ。)

 メンバーたちが、所定の位置につく。もちろん俺も。眉間に、力を集める。

 俺は、イヤモニをつけて俯く。全ての集中を込めて、足でリズムを刻む。

 幕が落ちる。観客の感情が弾ける。カクテル光線が交差する。

 俺のギターが、しょっぱなに炸裂する。続いて、重いドラムのビート。ベースが重低音で、絡みついてくる。

 ボーカルの歌声。観客を一発で、惹きつけた。

 よし。

 俺は思う。

 今日の彼は、最初から、楽しめている。

 ボーカルは、繊細ゆえに、気にしすぎることがある。

 そこを、うまく寄り添ったり、盛り上げたりするのも、ギターの音色だったりするのだ。

 ギターは、面白い。

 エレキギターは、それこそ、俺の分身であり、相棒だ。

 エフェクターは、曲や感情を表現するための、増幅装置だ。

 それらを駆使しながら、鼓舞したり、感傷を呼び覚ましたりする。

 自分が、前に出たり、後ろに下がったり、変幻自在になるのも、ギタリストの醍醐味だと思う。

 自己顕示欲があり、内省的でもある自分に、ぴったりの立ち位置なのだろう。

 俺のギターソロ。うねる音。観客のボルテージが上がる。

 実は、俺は、ウィンクができない。

 けれど
 ギターで、ウィンクをする。

 ハートを撃ち抜くのは、簡単だ。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿