天路歴程

日々、思うこと、感じたことを詩に表現していきたいと思っています。
なにか感じていただけるとうれしいです。

くゆらす香に想いをはせる

2017-03-26 20:11:45 | 
まだ夜は寒い
春の浅い夕べ

私の恋は
蕾を待たずに
散った

ひとりの夜
灯りをつけるのも
億劫で

薄暮の部屋で
香をくゆらす

それは

あの人が好きではなくて
わたしが好きな

白檀の香り

あの人は抹香臭いと
顔をしかめ

わたしはあの人に
心を奪われていたから

笑って

白檀を手離した

もう

好きなだけ

白檀の香をたけるのよ

わたしは

ひとりごちる

せいせいとして

いいはずなのに

白檀の甘い香りは

わたしを悲しくさせる

わたしは

はらはら
はらはら

涙をこぼす

黄昏時の恋は

花も咲かずに

消えた

わたしは

声もたてずに

静かに

泣いた








レプラコーンの金槌

2017-03-26 14:13:02 | 
あるおんなの話

ひとりぼっちの暗い部屋

ひとりぼっちの物が溢れた部屋

帰ってきたとたん何かを踏んだ

硬くて尖った何かだった

腹をたてて

何かが何かを確かめることなく

ガラクタばかりの部屋の片隅に

力いっぱい投げつけた

足の裏をさすりさすり

しわしわシーツのベッドに潜り込む

夜中に誰かが自分を揺する

「ちょっと、ちょっと」

おんなは唸りながら目を開ける

皺くちゃの小さな顔が

おんなの顔をのぞきこむ

手のひら大の小人が腕を組み

おんなの顔をのぞきこむ

「おいらの金槌をどこにやった」

おんなは知らないと

寝ぼけた頭で答える

「そんなはずない」

小人は真っ赤な顔で地団駄を踏む

「ちょっと前まであったんだから」

おんなは少し目が覚める

知らないものは知らないと

冷たく言って

小人に背を向けて眠ろうとする

小人は飛び上がって

また

おんなの顔をのぞきこむ

「探してくれたら、お礼をするよ」

いつの間にやら

手には金の壺

金の壺をひっくり返せば

出てくる
出てくる

金貨に銀貨

おんなの目は一気に覚める

小人は自分の髭をしごきながら

「探してくれたら、この壺をあげるよ」

おんなは飛び起きて

ゴミための部屋を引っかきまわし

嵐のような部屋が

大嵐のような部屋になる

そして

チュンチュンと鳥のさえずりが

聞こえる時分に

疲労困憊のおんなの手には

きらりと光る小さな何か

小人は飛び跳ねる

「おいらの金槌!」

「これで、靴が作れるよ」

小人は踊りながら

消えていった

一人残されたおんな

ニンマリ笑って

金の壺があったあたりに

目をやった

金の壺は消えていた

金貨も銀貨も消えていた













春寝春雨

2017-03-22 20:17:27 | 
今日は雨

それを口実に

うらうら

朝寝の遅寝を決め込む

雨が降る降る

たんたん

聞くとも聞かぬとも

うつつのまま

春の繭が

蛹になるのを

感じてる

春の蝶が

羽を広げるのは

もうすぐ

春先の雨

うっすらと

光を含む


地上三センチの浮遊

2017-03-15 20:02:19 | エッセイ
『静かな夜』

私は、一人が好きです。子供の頃からそうでした。一人の孤独は、そんなに辛くないのですが、大勢の中での孤独はとても辛い。幼い私が、「一人ぼっち」を学んだ時の感触です。そして、今もそう思っています。

自分は、「平凡」で「普通」なのですが、なんか少しずれてる。「特別」でも「非凡」でもないのに、違和感がある。小さい時から、そんな小さなとげとげが気になって仕方がなかったのです。
(そう感じてる方は、とても多いかとおもいます。)

子供の頃、友達と「遊ぶ」ことがとても苦手でした。かくれんぼも鬼ごっこも、ゴム跳びもあっち向いてほいも。
すべて不得意でした。

大人になって、うれしいことは、「遊ばなくていい」ということです。

(ただ、子供時代の遊びは、大事なことだと思います。私は、「遊ぶこと」から逃げていたばかりに、欠落している大人になってしまいました。コミュニケーション能力だったり、判断力だったり、「勉強では学べないこと」が著しくできないまま大人になったのです。)

大人になると、「みんな」で行動しなくなり、「ひとり」が単位になってきます。

私にとって、今が一番、楽だと感じています。

静かな夜を一人で過ごす。

なんて贅沢を貪っているのでしょう。

ただそれは、それを享受できる健康と状況があるから。

そのことは、肝に銘じておきたいと思います。








アフォガート ラブ

2017-03-12 20:54:59 | ショート ショート
かわいい君を好きになるんじゃなかった。私はため息をついてしまう。

冬の夜ふけ。二人は小リスのように睦みあって、くっつきあって眠る。そんな時、私は綿菓子にくるまれているような気分になる。甘くて、溶けてしまいそうなピンク色の雲。

なぜ君は私を選んだのだろう。聞いたら、君はふわふわと笑って、それでもちゃんと答えてくれる。それは、わかっているんだ。

けれど、私は尋ねない。なんだか、聞いたら、魔法が溶けてしまいそうだから。(意地悪な言い方をすると、私の君への幻想が壊れてしまうということかな。)

こんならちもない、ひねくれた考えの私は、もちろん、君よりうんと年上だ。

私の夜の眠りは浅い。悲しい夢のつなぎ目のたびに、目を覚ましてしまう。ハッと目を開けると、隣には、規則正しい寝息をたてた君がいる。滑らかな肌。長いまつげ。私は、ちょっと憎らしくなって、君の鼻を軽くつまむ。それでも、君は起きないんだから。

そう。繰り返し見るのは、君を失ってしまう夢。かきむしるような苦しみと、ささくれた虚しさで目が覚めるんだ。

いつかは訪れるだろう別れ。(永遠に続くなんて思うほど、若くない私。)私は、君を潰したくない。そこまで、執着したくない。だって、それは、せっかく仲良くなった二人を汚してしまうから。

でも、

別れの時、痛みをこらえて、君を手放すことができるのだろうか。

わからない。

蜜月の今、こんなことばかり考えている私は愚かだ。


それだけ、今は幸福だということなのだが。

私は今、アフォガートの海に溺れている。甘いアイスクリームと苦いコーヒーに混じって、浮きつ沈みつしている。

(アフォガートが溺れると言う意味だというのは、言い得て妙だ。)