まろの陽だまりブログ

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せめて心だけでもやさしい
陽だまりのような人間でありたいと思います。

橋本忍さん逝く

2018年07月22日 | 日記

訃報が相次ぐ。
演出家の浅利慶太氏に続いて
脚本家の橋本忍さんが亡くなられたと言う。
私が最も尊敬する脚本家だった。

脚本家は裏方の仕事だから
その名前を聞いてもご存じない方も多いかも知れない。
黒沢映画の全盛期を支えた脚本家だった。
サラリーマン時代に初めて書いた「羅生門」が
ヴェネツィア映画祭のグランプリに輝いたのは有名な話だ。
以来、「生きる」「七人の侍」「どですかでん」と
キラ星のごとき名作がズラリとならぶ。
黒澤明が世界一の映画監督なら世界一の脚本家ということになる。
そのくらい偉大な脚本家だった。
そうそう、日本の戦争責任を真正面から問いかけた
テレビドキュメンタリー「私は貝になりたい」も橋本さんの脚本だった。
いわゆる社会派の作風ではあったが
綿密な構成に支えられた骨太な展開力があって
娯楽性豊かなヒットメーカーだった。
私がこの業界に入った頃からもう雲の上の存在で
一面識もないがずっと尊敬し続けて来た。

数ある橋本脚本の作品の中でも
やはり一番のインパクトを感じたのは「砂の器」だろうか。
世界的な天才ピアニスト和賀英良の
宿命とも言うべき暗い過去〈父親がハンセン氏病患者〉を追いながら
犯人捜しというサスペンス映画の醍醐味を
大胆な構成と演出で描く清張作品の中でも出色の名作だろうか。
原作の松本清張自ら「小説をはるかに越えている」と
絶賛したいわくつきの作品である。

脚本は橋本忍と山田洋次である。
当初、共同執筆を依頼された山田洋次は
膨大な原作を読んで「映画化は無理」と断ったそうだが
粘り強い説得と様々なヒントを与えながら
橋本忍は素晴らしい脚本に仕上げた。
それは原作に書かれていない部分をドラマにするという力業であった。
和賀英良がコンサートで初めて自作の組曲を演奏するシーンと
過去の父親との放浪生活を回想するシーンが
捜査本部が和賀逮捕を決める場面と見事なカットバックで重なり
何度見ても息づまるようなクライマックスであった。
犯人役の和賀英良を演じた加藤剛さんもつい先日亡くなられて
よけいに思い出深い映画になった。

齢100歳という年齢は
めでたいとも言える長寿ではあるけれど
次回作にまだまだ意欲を燃やしておられたと聞けば
やはり残念でならない。