令和2年2月26日(水)
県議会観光産業振興議連による「せとうちDMO」、「尾道空き家再生プロジェクト」を視察しました。
「せとうちDMO」は、観光地経営といわれるDMO(Destination Management Marketing Organization) の中で、広域連携DMOに属する、瀬戸内海に面した7県で構成する組織です。DMOの目的は、交流人口を増やし、地域に継続的な経済的利益をもたらします。
「せとうちDMO」は、瀬戸内ブランドの確立による地方創生を目的とし、それは地域再生と成長循環を実現することとしています。
組織を構成するのは、観光需要の創出と観光ビジネスの拡大(マーケッティング・プロモーション、プロダクト開発支援)を目的に官民で構成する(一社)せとうち観光推進機構と、金融機関を中心とする民間主体の(株)瀬戸内ブランドコーポレーション(経営支援・プロダクト開発支援)が連携しています。
実績では、この組織の母体となる「瀬戸内 海の構想」が策定された2010年が85万人泊だったのが、2018年には398万人泊となり、2020年目標は600万人泊を掲げています。現在大きな課題となっている新型コロナウィルスの影響は懸念されるところですが、その影響はまだないとのことでした。

(せとうちDMO関係者と視察団)

(代表者による取り組み状況の説明)

(提供いただいた資料)
ホームページには、このDMOが誕生する背景が記され、瀬戸内海は世界有数の多島海であり、1860年に瀬戸内を訪れた著名なドイツ人地理学者リヒトホーフェンが、「広い区域に亙る優美な景色で、これ以上のものは世界の何処にもないであろう。 将来この地方は、世界で最も魅力のある場所の一つとして高い評価を勝ち得、沢山の人々を引き寄せることであろう。」と自著で賞賛しています。
グローバルレベルでの高い観光価値を有する瀬戸内圏には、近年欧米やアジアからの来訪者が増加傾向にあることに加え、地域資源を生かしたビジネス、着地型ツーリズムが浸透してきており、さらに積極的な展開を図る大きなチャンスを迎えています。
説明では、インバウンド戦略として、最重点市場国にイギリス、ドイツ、フランス、アメリカ、オーストラリアをあげており、世界の旅行市場の状況から訪日数はアジア系が上位を占めるも海外旅行市場では圧倒的に欧米系が多い事があります。
情報発信については対象国ごとにトラベルエージェンシーを設置し、現地メディア及び旅行会社との関係構築、コンセプトに基づくブランディングなどについてや、デジタルマーケッティング、その他、100億円規模の観光活性化ファンドを活用した観光関連事業者への経営支援や資金支援などについても説明を受けました。
静岡県には地域連携DMOである「静岡ツーリズムビューロー」があり、インバウンドの司令塔として、マーケッティングとマネジメントを行っています。目的や事業内容に大きな違いはありませんが、周辺の地域を巻き込んだ広域DMOは今後導入していかねばならず、そのさきがけとして取り組む「せとうちDMO」の取り組みは大変参考になりました。
「尾道空き家再生プロジェクト」は、尾道で活動する認定NPO法人の名称です。
この町で生まれ育った女性のNPO法人の代表が、かつて海外旅行添乗員として世界各地を訪れ、その旅先の魅力を感じるとともにふるさとに似た光景をいくつも見てきました。
その経験がある一方で、ふるさとの厳しい現状を知り、荒廃して失われていく中に大切なものを見つけ、それが空き家再生プロジェクトとして立ち上がった背景として伺うことができました。
以下は、ご本人から伺った内容がホームページに記載された内容に要約されていますので引用します。「瀬戸内海のおだやかな海と山々に囲まれた街、尾道。 尾道固有の町並みや建物はそこで営まれてきた暮らしの歴史であり文化です。その中でも特にユニークな環境をもつ山手地区ですが、現在、空洞化と高齢化が進み、空き家が数多く存在しています。その中には建築的価値が高いもの、不思議で個性的なもの、景観が優れているもの等さまざまな魅力をもったものも含まれていますが、残念ながら住人を失った家々の傷みは年々加速しています。尾道空き家再生プロジェクトではそれらの空き家を再生し、新たな活用を模索していきます。この活動を通じてほかにはない尾道らしいまちづくりを展開していきたいと思います。」
空き家 × 建築 abandoned house × architecture
尾道の旧市街の家々は時代劇のロケセットのように統一されたものではなく、2キロ四方の中心市街地に、まるで家の博物館のように各時代の家々が点在しています。繁栄した時代を象徴する町屋や土蔵、お茶室や日本庭園のあるお屋敷や洋風建築など・・・。そして、山あり海ありの変化の多い地形に合わせてつくられた不定形な家や眺望重視の絶景の家、増築を重ねた変形の家、希少な木造3階建ての家など、個性的な生活感あふれる尾道らしい家がいっぱいです。そんな尾道建築の面白さや失われつつある職人技などをより多くの人に伝えたいと思います。
空き家 × 環境 abandoned house × environment
地球環境のことを考えると、古い家に住み続けることは、産業廃棄物や森林伐採の減少にもつながり、重要なエコ活動になります。また、空き家が放置される要因の一つである不要な家財道具のリユース・リサイクル、廃材や古道具の再利用によって、エコ活動に貢献するだけでなく、レトロな尾道らしい町並みを残していくことにも努めます。二度と新築の建てられない斜面地の更地などは、畑や手づくり公園など、緑化運動にも努めます。
空き家 × コミュニティ abandoned house × community
尾道の斜面地や路地裏に点在する多くの空き家は、少子高齢化、地方都市の過疎化、中心市街地の空洞化の象徴となりつつあります。いくら古い建物や景観を守っても、そこに人がいないと魅力的な町とは言えません。次世代が住まなくなった空き家の里親探しや、新しい移住者さんへの暮らしのアドバイス、空き家・空き地を使った世代間の交流、イベント企画など新しいコミュニティづくりのお手伝いもせっせとしていきたいと思います。
空き家 × 観光 abandoned house × tourism
尾道には大勢の方が観光に訪れてくださっていますが、1日2日ではとうていディープな町・尾道を知り尽くすことはできません。何度も足繁く通っていただくか、長期滞在するのをおススメします。そこで、空き家を使った短期貸家を、安く長く滞在したい方や尾道暮らしを体験したい方に提供していきたいと考えています。また、住めるようにするには難しい空き家も、趣味のお店や工房など、山手のそぞろ歩きや路地裏探検をもっと面白くしていけるモノに再生できるのではないかと思っています。

(説明会場はリノベーションした旅館の大広間。瀬戸内を眺める素晴らしいロケーションに感動)

(いただいた説明資料)

(行政との協働事業)

(様々な課題も見えてきた)

(リノベーションした旅館。以下、代表例を紹介)







今、全国で空き家が大きな社会問題となっています。少子高齢化が進み、核家族化などで家族が分断され、高齢者が住まなくなった住宅や、商店街の空き店舗など、理由は様々ですが場所がどこかにかかわらず空き家が増えています。
管理ができず荒廃した空き家は、地域環境悪化の原因になり、防犯上の問題も生じています。その多くは個人所有であるため、個人の管理が問われているものの、公共の関与も進んではいますが、結果として空き家は増え続けています。
先日は、不動産業界の代表者との勉強会でも、あるいは行政書士会の会合の席でも、それぞれの団体が対策に向けどう関与すべきか、制度上の課題も含め議論が進んでいます。
今回訪れた「尾道空き家再生プロジェクト」は、民間主導で、行政もほどよい支援を行いながら、空き家問題を広い視点で捉えて取り組んでいる好事例として視察させていただきました。
まちづくりは、そこに住む住民が当事者として考え取り組んでいくことが重要です。町の歴史や文化は一度失うと再生はできません。また、単に保存するといっても時代の時代の流れを無視するわけにもいかず、新たな視点、アイデアが重要であることがわかりました。
講話の後、地域内の再生された空き家を見て回りましたが、共通しているのは建設当時の面影を残しつつ、中身は今の時代に合ったリノベーションが図れています。地域外から多くの若者が関心を持ち、リノベーションの作業に参加し、その過程で得た感動を移住と形で実現しているケースもあり、注目すべき取り組みと実感しました。
本県の空き家対策でも、この取り組みを参考に、地域主体のまちづくりのあり方を考えながら取り組んでいきたいと思います。