令和2年1月31日(金)
静岡県議会厚生委員会による県外視察は、今日が最終日となり、愛媛県久万高原町立病院を訪れ、地域医療とコミュニティナースの取り組みについて学ばせていただきました。
久万高原町は松山市から南東へ車で1時間ほど行った中山間地で、人口も8,000人弱の町です。しかし面積は愛媛県で最も広く、人口減少、超高齢化、過疎化が進む、これから日本の各地で同じような環境に進む事が予想され、ある意味では日本の地域医療をどうすべきかを先取りして取り組んでいる地域です。
(視察団と久万高原町立病院関係者)
(町長さんも挨拶に見えた)
昨日訪れた愛媛大学医学部は、この久万高原町が抱える様々な問題に対処するパートナーであり、大学にとってもこの町が医学部の必修科目である「地域医療学」の実際を学ぶサテライトセンターに指定され、ここでの教育や研修を通じて、将来の地域医療を担う医学生を育成しています。
町の医療の中心は、町立病院であり、現在の診療科目は、内科、外科、整形外科、リハビリテーション科、小児科、眼科、歯科、心療内科、精神科で、病床数は、一般が47床、療養が30床となっています。
この規模ながら、予防医療や健康づくりなど、行政が行う保健や福祉サービスに密接に関わりながら地域医療に取り組み、全国のモデルケースになる地域包括ケアシステムの構築を目標に活動しています。
町域が広いことで管轄もそれに応じており、患者にとっても病院にかかることはその移動だけでも大変なことです。冬期は雪が積もり、さらなる困難な環境となります。地域内の医療従事者は高齢化し、その機能の継続が不安視されており、いずれはこの町立病院が地域全体を見ていかねばならない厳しい現実を目の当たりにしています。さらに365日24時間の救急受入体制も1次、2次救急を実施し、勤務環境は過酷を極めています。
この病院が高度急性期病院として、また地域の医療機関とのハブを実現するためには、医療環境を充実させることと、予防医療への取り組みでした。
医療環境の充実では、電子カルテの導入、内視鏡検査設備の充実、X線CTの高度化、遠隔画像診断による愛媛大学との連携があります。さらに、範囲が広いことで在宅医療の充実が求められており、訪問先での情報収集とそれに対する迅速な診断が重要になってきます。ICT技術の導入は、それらを実現する大きなツールであり、訪問看護ステーションのスタッフにタブレット端末を提供し、モバイル型の超音波診断装置を携帯してその計測結果を医師に転送し、判断を仰ぐ事ができる環境を整えました。この成果は、予防医療に大きく貢献し、早期発見・早期治療に効果を発揮しています。
(医療機関としての取り組みを聞く)
そして、病院が新たに取り組み始めたのが、「地域に飛び出す医療人材の健康的なまちづくり」でした。医療知識を持つ人がまちづくりに参加し、専門家としての知見を生かしてまちづくりに役立てることです。これは「地域医療」と「まちづくり」をつなげることであり、その担い手がコミュニティナースでした。
コミュニティナースとして活躍する方の説明では、久万高原町におけるコミュニティナースの誕生は、「病院に行くほどではないけれど、何となく体が気がかり、誰かに相談したい。」と思ったときに、その人のそばにいたいという思いから始まったと言います。
医療過疎と言われる中山間地域では、病気になって初めて、「病院で医療と出会う」のではなく、一番身近な「コミュニティの中でナースと出会い」、住民に寄り添いながら活動し、健康相談をしたり、一緒に運動したり、健康の正しい知識を広める事がコミュニティナースの役割と説明していました。
このような考えに至る過程では、在宅医療を担う訪問看護や老人保健施設の勤務経験があったからと言います。
(コミュニティナースについて説明を聞く)
コミュニティナースは、実際に各地のまちづくり団体に役員として参加し、そこでのまちづくり会議等に出席しながら、まちづくりを共有・活動し、医療や健康に関する視点で意見を言う立場を実践しています。人間関係が深まれば、地域の様々な情報を得ることができ、地域の医療情報を病院や行政にフィードバックすることができ、健康なまちづくりを実践していくことができます。
全国には200人ほどのコミュニティナースがおり、各地でそれぞれの視点に立った取り組みを行っています。久万高原町立病院の取り組みを知った他地域の医療関係者が、就職先としても関心を高めていることに驚かされました。どう医療スタッフを確保するかという課題はどこも抱える大きな問題ですが、この小さな町が真剣に取り組む地域医療のあり方が、大きく心に響いているのは間違いなさそうです。