平成24年8月21日(火)
今、シンガポールは芸術分野での教育に国家プロジェクトとして取り組んでいます。そして、専門的な教育を経て、シンガポールを世界的なデザインの拠点とするための体制づくりが進んでいます。
この度、13歳から始める英才教育の芸術学校と芸術大学、そしてシンガポールデザイン協議会を訪問し関係者のお話を聞いてきました。
教育分野では、13歳から18歳までの6年間に英才教育を施すための芸術学校、School Of The Arts Singapore(通称:SOTA)があり、1,200名(1学年200名)の学生が学んでいます。
(SOTAの校舎。校舎のデザインも大きな評価を受けている)
(説明いただいた副院長 Dr Yap Meen Sheng氏)
(芸術学校教授陣、男性:Tan Wee Lit氏、女性:Grace Tan氏))
シンガポールは、世界の同年代の学生達がもつ「数学」と「科学」においては、その理解能力がトップクラスに到達していますが、「文化」については取り組みが遅れています。そのための国をあげた取り組みが積極的で、アメリカやヨーロッパでは芸術文化への投資が減じている状況ですが、シンガポールは増えています。
シンガポールが力を入れている学科分野(スポーツ、医学、技術、芸術)のなかで、一人あたりの教育予算額が一番多い分野は芸術だそうです。
専門分野は、ビジュアルアート、音楽、舞台芸術、フィルム(映像)があり、優秀な教師陣が学生達を導いています。しかしこの学校の特色の一つに、単に芸術の専門性だけを高めるのでなく、「芸術」「学術」「人間性」のそれぞれがバランスよく取得できるよう、カリキュラムが設定されています。通常、この年代は中学生と高校生であり、専門性よりも一般教養が重視される年代です。この学校でも、英才教育を受けたからと言って、それぞれの専門を履修し、それを生かした分野に進出・進学するとは限りません。ちなみに、卒業後、芸術関係に進むのは50%強ということです。
(学生が描いたポルシェへのデザイン。コンテストで優勝)
(体育館での体育の授業風景)
また、それぞれの専門分野を国民に理解していただくためにも、芸術の専門的な知識を得るだけでなく、芸術を評価し伝え、またビジネスとして成立することも重要で、そのための知識も必要となります。つまり、専門以外の知識も必要となるわけです。
卒業するためには卒業論文があり、取得すべき単位は、「英語」「第2外国語」「科学」「社会」「数学」「芸術」を取得する必要があります。
さらに、「結果」だけを重視するのでなく「過程」についても評価する方式がとられていることも、この学校の特色です。
25人学級で、教員はマンツーマン授業にも対応し、1人の先生が1人から20人くらいの学生を受け持っています。
教師には外国人も多く、留学経験もある優秀な人材が確保されています。
日本では、学校全体が芸術専門校のケースはほとんど聞いたことがありません。専門科がある学校はたまに見かけます。
SOTAについては次を参照。 http://www.sota.edu.sg/
次に訪問したのはラサール芸術大学で、デザイン学部長(女性)やギャラリーのキュレーター兼ディレクタにお話を伺いました。
(ラサール芸術大学の校舎の遠景)
(校舎のデザインも奇抜)
(説明いただいたデザイン学部部長の、Ms Nur Hidayah Abu Bakar氏:右側)
この大学は、1984年に設立され、現代芸術であるデザイン、ファッション、造形美術、メディア、ダンス、音楽、演劇、アジア芸術史、アートセラピー、アートマネージメントを学ぶことができます。
学生の半分は留学生です。
日本との関わりは、東京芸術大学と平成19年に国際交流協定校を提携しています。また、2010年3月には、デザイン学部とアニメーション学部が、静岡市クリエーター支援センター(通称:CCC)が支援し、ワークショップを開催しています。
(ギャラリーのキュレーター兼ディレクタの、Dr Charles Merewether氏)
企業のとの連携では、シンガポールを代表するマリナベイサンズ(三つの高層ホテルの上に船が乗ったような施設)の、外部コンポーネントデザインにも関与しています。
大学が目指すものは、「シンガポールは、かつて工業用デザインは海外で、製造は国内」だったものを、「デザインはシンガポールで、製造はベトナムや中国など周辺国へ」だそうです。シンガポールにおけるデザインのハブ化を目指すそうです。
ラサール芸術大学は次を参照。 http://www.lasalle.edu.sg/
最後に、シンガポールデザイン協議会(Design Singapore Council)を訪問しました。
(会議場では、こんな名札まで作っていただきました。)
ここは、シンガポール議会の経済検討委員会が次世代成長産業に、教育、ヘルスケア、クリエイティブを掲げたことを受け、シンガポールを世界的なデザインの拠点とすることを目的に、2003年に設立されました。デザインに関する国家的な窓口で「情報芸術省」に属します。
(説明いただいた、マネージャー Yeo Piah Choo氏)
(説明いただいた、アシスタント ディレクタ Germaine Charis Yeo氏)
(その他、DSCの専門スタッフの皆さん)
ここの戦略は、「デザイン能力の開発」「競争力のあるデザインの育成」「デザインの革新」「ナショナルデザインセンターの設置」を掲げています。
シンガポールでは、「デザインと企業を結びつけ、競争力にうち勝つ力をつけること」が目標だといわれます。その背景には、「価格競争で低価格化が進む」ことや、「品質の良さ」は当たり前となり、残された道が「デザイン」ということです。高品位なデザインをどう選び抜くか、そのステータスシンボルが、日本の「Good Design」(Gマーク)であり、それと同様な仕組みに取り組むことを目指すために、日本へのアプローチが様々な場面で行われています。なかでも日本の伝統工芸には大変興味を抱いているようで、日本国内の職人達との交流を強く望んでいます。
さらにデザインは、「オリジナル」でなければなりません。そして、オリジナルの「ブランド」を目指す必要があります。
シンガポールは、中華人、マレー人、インド人を中心とした多民族の都市国家です。国の統制を図るためには、それぞれの文化や習慣を理解し、バランスよく配置することで融和、統一を実現してきました。
この考え方は、商品づくりに重要なヒントを投げかけています。つまり、統一的なデザインでは、商品として売るためには限界があります。それぞれのライフスタイルにあった商品デザイン(色や形など)を考慮すること、相手の受け入れやすいデザインを施すことで、商品が売れていきます。国に当てはめれば、アジアのライフスタイルにあったデザイン、その国が求めるデザインを考慮することが重要になります。
(デザイン戦略の展開を説明するスライド)
シンガポールには国としての大企業がほとんどありません。中小企業が多い国ですので、この分野にデザインの知識を広めることが国としての大きな課題となります。そのための様々な支援策がとられています。
以上の実現のためには、日本のデザイン力が大変参考になると言っています。静岡県にもそれらに十分応えられる企業があることを伝えました。
(デザイン戦略の計画予定を説明するスライド)
シンガポールデザイン協議会については下記を参照。
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