思惟石

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『歌え、葬られぬ者たちよ、歌え』 ちょっと腑に落ちない

2023-03-10 17:06:18 | 日記
『歌え、葬られぬ者たちよ、歌え』
ジェスミン・ウォード
石川由美子:訳

2017年の全米図書賞受賞作。
作者は黒人系女性作家で、
今作と『骨を引き上げろ(Salvage the Bones )』(2011 年)の受賞で
全米図書賞を2度受賞した初の女性作家でもある。

『歌え、葬られぬ者たちよ、歌え』は、
アメリカ南部に住む黒人系一家の物語。

主人公のジョジョは13歳、
父は白人で、母方の祖父母と共に暮らす少年。
いたりいなかったり、というかいない方がマシ、
という母親レオニが第二の主人公とも言える。
まったくのダメ女である。

その夫マイケルもダメ男で、しばらく前から刑務所に服役している。

ジョジョは素直に健やかに育っているけれど、
実家は貧しく、ダメ女な母親はダメ男マイケルにぞっこんで薬中で
おまけに母親失格(育児放棄に近い状態)で。
とにかくジョジョが妹ケイラ(3歳くらいか?)の世話と守護もしなければならない状況。

語り手は、そんな苦労人ジョジョ、ダメ女レオニ、そして時々ゴースト。
物語の中心部は、
マイケルが出所するので長距離ドライブでお迎えに行くよ!ドラッグも運ぶよ!
(もちろんジョジョは行きたくない)というロードノベルでもある。

水も食事も準備せずに幼児ケイラを強制連行するあたり、
虐待で完全有罪だと思うけど、
どうもこの小説界隈はそんなツッコミは待っていないらしい。
とにかくアメリカの抱える問題にスポットライトを当て、
みんなで考えなければいけない空気があるよいうか。
(数ページに渡る別刷解説とか、だいぶ大上段に構えているきらいがある)
個人的には、ちょっと、そういう大きな視点で読めなかったな。

訳者解説で、作者の言葉が紹介されていた。
「ジョジョやミケイラを愛し、レオニを嫌うのは簡単だが、
レオニが奪われたものにも思いを馳せてほしい」
まったく賛同できないんですけど…。
仮に、まあ、思いを馳せることは可能だ。うん。
とはいえ、その結果としてのレオニの選択を肯定はできないんだよな。

別に否定したいわけでもないのだけど。
なんだろうな、社会の問題や不幸を描き理解を求めることと、
その結果として共感を求めることは違うんじゃないかな、とか。

うーん、学びはあったといえばあったし、
ジョジョとケイラとリヴの幸せは心から願っているし、
リッチーも安らかなれと思っているのだけれど。

この作品を取り巻く空気が腑に落ちなかったのかな。
難しいな。
コメント
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