思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

宮内悠介『盤上の夜』

2020-10-21 10:43:41 | 日記
宮内悠介のデビュー作の『盤上の夜』。
で、いきなり直木賞の候補にもなっています。
すごい。

内容は、ボードゲームにまつわる6つの短編。

『盤上の夜』囲碁
『人間の王』チェッカー
『清められた卓』麻雀
『象を飛ばした王子』チャトランガ(古代チェス)
『千年の虚空』将棋
『原爆の局』囲碁

舞台はちょっと未来なのかな?
チェッカーや麻雀の話しは
まさに、盤上遊戯としての黄昏を感じるストーリー。

というか、チェッカーは現代ですでに絶滅危惧ゲームじゃないですか?
そんなことないのかな。
ちなみに『人間の王』に出てくるチャンピオン・」ティンズリーは
実在の人物だそうです。

囲碁に関しては、主人公の由宇が面白い存在なので、
「囲碁」よりも「彼女」のお話しという印象。

それぞれの分野での歴史や人間模様、切磋琢磨の様子が
よく調べられて描かれているので、面白い。
ちょっと未来の、そのゲームの行き着く先は?みたいなところが
想像力とSF力豊かな筆致で描かれていて、すごいと思う。

とはいえ、麻雀だけは、私が一度もやったことないので
ゲームの流れを理解できず、話しの展開がピンとこなかったなあ。
万人がこの6つのゲーム全てに親しんでいるはずがないので、
いたしかたなし。

どうでも良い話しですが、
チェッカーの話し(『人間の王』)を読んでいる時に
ちょうど『キャッチャー・イン・ザ・ライ』も併読していまして。
ホールデンが「チェッカーでキングを動かさない女の子(ジェーン)」
の話しをしていてビックリしました。
人生で「チェッカー」が出てくる本、他に読んだことない笑
読書ってこういう呼び合わせみたいのがあるから良いですね。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

伊坂幸太郎『グラスホッパー』

2020-10-16 16:48:54 | 日記
伊坂幸太郎の『グラスホッパー』読了〜。

厳密な続き物のシリーズではありませんが、
舞台設定が地続きで3作が刊行されています。
『グラスホッパー』(2004)
『マリアビートル』(2010)
『AX』(2017)

例の如くというか、案の定というか、今日も今日とて。
私は読む順番を間違って『マリアビートル』を先に読んだわけです。

その上での、『グラスホッパー』である。
なので、私的には、塾講師の鈴木先生ががんばる物語。
(「グ」内ではまだ塾講師ではない。神父感もない)

とはいえ!
刊行順を逆に読んでしまったから失敗したかと思ったが、
小説としては「マ」の方が圧倒的に面白い。出来がいい。
ので、
「あさがおだー」「すずきせんせいだー」「スズメバチだー」つって、
あっけらかんと楽しめました。
こういう楽しみ方もいいじゃないかと。

偉そうな感想だけど、
「グ」(2004)から「マ」(2010)への6年で
伊坂先生、もの凄くうまくなってませんか?と思った。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

村上春樹・柴田元幸『サリンジャー戦記』

2020-10-14 18:24:45 | 日記
というわけで、ゲットしてきました。
村上春樹と柴田元幸の共著
『翻訳夜話2 サリンジャー戦記』。

オリジナルの『翻訳夜話』はお二人の”翻訳”全体に関する談義ですが、
「2」は『キャッチャー・イン・ザ・ライ』がテーマになってます。

というか、「キャッチャー」本編に収録できなかった訳者解説のために
一冊つくったって感じですね。
訳者解説パワー、すごいな笑

村上・柴田対談は2篇。
ひとつめは、白水社による
『キャッチャー・イン・ザ・ライ』プロモのためのもの。
ふたつめは、文藝春秋による
この本のためのおかわり対談。
さらに40ページ超えの訳者解説(質量が凄い)が収録されています。

訳者解説はサリンジャーのことがよくわかる
良い文章だった!
これ、本当に、本編に収録した方が良いと思うけどね。
別冊付録付き!みたいにしたら良いんじゃなかろうか。

対談の内容(ほとんどムラカミさんが柴田さんに向かって
マイ「キャッチャー」論を話す感じだけど。
対談というよりインタビュー感がある笑)も、とてもおもしろかった!

ブルジョアぼっちゃんの神経症的な語り(と私はまさに読んだわけだけど)
にとどまらないという村上論はなるほどというか、
勉強になりましたありがとうございます!
ホールデンが「変化」を恐れてイノセンスを追求する感覚とか
解説されるまでわからなかったなあ。

フィッツジェラルドのギャツビーといい、ホールデンといい、
アメリカには成長小説が無くて、
「反成長小説」が多いという部分、特におもしろかった。
117ページから124ページあたり。
ギャツビーはアドレッセンス(思春期)に留まり続けたい大人、とか。
作中では、ホールデンはギャツビーを嫌っているみたいだけど、
本質的に「成長しない」ってことで同じでは、みたいな。

カポーティーはアドレッセンス抜きで、
こどもから大人というか飛び越えて老成しちゃう(笑)という話しも
おもしろい。
グローイング・アップを通り越してグローイング・オールドって。
カポーティーはあまり読んでないけど、
(『ティファニーで朝食を』とノンフィクションの『冷血』)
なんかわかると思ってしまった。
村上訳のやつで短編集でも読もうかなあ。

なにはともあれ『キャッチャー・イン・ザ・ライ』は
作者のサリンジャーという人が抱えている問題やら人間性やらも
一緒に読むことで、すごくおもしろくなる。

やっぱり本編と『翻訳夜話2』をセットで売った方が良いんじゃないか。
出版社違うけど…。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

サリンジャー『キャッチャー・イン・ザ・ライ』村上春樹訳

2020-10-12 12:16:01 | 日記
『ライ麦畑でつかまえて』って、
“有名だけど実は読んだことない”有名本
みたいなジャンルがあったら入る気がしませんか。
(私のなかでは、そのランキング内にオーウェルが2冊はいってました。
これこれ

そんなことないですかね。読んでないの私だけ?

私はですね、
読んでない上に内容もまったく知らなかったです。
なんなら『嵐が丘』っぽい小説かと思ってました。
「ライ麦畑」が田舎(且つ19世紀)っぽいな、という単純な思考で。

あら、違うのね…。
永遠の16歳少年のピリッピリした青春の語りなのね。

思ってたんと違う笑
まあいいか。

というわけで1951年ニューヨーク上流階級の子息
思春期真っ只中のホールデンくんの(時に痛い)自分語り。
村上春樹による新訳『キャッチャー・イン・ザ・ライ』で。
結構おもしろかったけど、
仮に、自分の息子が思春期にこれを読もうとしたら止めるかな。
こじらせそうだし。
でもまあいいか、10代なんてどうせこじれるんだし。

村上さんは好きな作家しか訳さないので、
今回も愛に溢れた(質量ともにな!)膨大なる訳書解説
読めるかと思ったら、
作者の意向(サリンジャーはすべての作品に
解説を付けることを許可しなかったことで有名らしい)で
収録されていないようです。

なんだよ!そっちの方を期待してたのに!!

と思ったら、柴田元幸さんとの翻訳にまつわる対談集に
収録されているそうです。
やっぱりがっつり書いていたんですね笑
ちょっとゲットしてくる。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ウィリアム・アイリッシュ『幻の女』

2020-10-09 10:41:21 | 日記
ウィリアム・アイリッシュ『幻の女』
1942年に刊行された名作ミステリです。

ニューヨークでのスタイリッシュな暮らしぶりが
素敵な感じで描かれているんですが、
え?42年刊行?
戦中じゃないの?

一旦、戦争はさておき。『幻の女』です。

主人公がバーでたまたま出会った見知らぬ女性と
食事&観劇して帰宅したら奥さんが殺されてました。ビックリ。
唯一、無罪を証言してくれるはずの女は何処に…。
というミステリです。

大都会で見知らぬひとりの女性を探さないと死刑ですよ。
設定がハード!!
ワクワクする笑

夜のニューヨークが舞台なのも良いですよね。
まことに都会らしい筋立てで、
中盤の女探しも「また行き止まりかよ!」って感じで面白いのですが、
クライマックスも良くできています。
なるほどこれが名作古典の実力か!と納得。

『幻の女』は、冒頭の1行が特に有名らしいですね。
私は知らなかったけれど、読み始めたとき、
良い描き始めだな〜とグッと来ました。

「夜は若く、彼も若かったが、夜の空気は甘いのに、彼の気分は苦かった」

これは稲葉昭雄の訳。
私が読んだのは新訳の黒原敏行版(ハヤカワ・ミステリ文庫 2015)ですが、
最初の一文は稲葉訳を採用しているそうです。

「夜は若く」
たった四文字なのに、綺麗ですね〜。
ずーっと指でなぞっていたい。
口の中で転がしていたい。

ちなみに原文もめちゃ良いです。
「The night was young, and so was he.
But the night was sweet, and he was sour.」

TOEIC500点くらいしかない私でもうっとりできる良さ笑
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする